[PH-12-5] 入院中の急性期認知症患者が活動に集中するための作業療法士の工夫
【はじめに】精神科病院である当院では行動心理症状(以下, BPSD)の重い急性期認知症患者への作業療法(以下, OT)として, 「音楽活動(歌唱, 動画等)」「創作活動(貼り絵, 塗り絵等)」「ゲーム活動(輪投げ・風船バレー等)」等を実施しており, 中でも「音楽活動」と「創作活動」は実施頻度も高い. Gagnon, et al.,(2009)は「音楽活動はBPSDを呈する認知症者においても導入しやすい」としている. しかし活動に対する取り組み方にどのような違いがあるかは経験的印象にとどまっている. 今回, 活動の取り組み方に対する評価尺度であるAssessment Scale of Engagement to Activities (以下, ASEA)(Tanaka, Umeda, et al., 2021, 2022)を用いて, 音楽活動と創作活動への取り組み方の違いを明らかにするとともに, 患者が活動に取り組むために作業療法士が工夫している点を調査することとした.
【方法】対象者:2019年1月~12月に入院されOT開始となった認知症患者を対象とした. 除外基準は, 評価対象時期1週間以内に抗精神病薬などの処方により明らかに覚醒度が低下し, 作業療法に参加できなかった者とした.
用いる評価:年齢, 性別, 疾患を診療録より確認した. ASEAは進行期の認知症者への治療的な活動に対する取り組み方を臨床の中で簡便に観察評価できる信頼性・妥当性が担保された尺度であり(Tanaka, Umeda, et al., 2021, 2022)「参加」開始」「継続」「正確さ」「覚醒度」「他患者との交流」「集団への交流」「スタッフからの関り」「ポジティブな感情表出」「ネガティブな感情表出」の合計10項目からなり各項目は3件法で0-2点の合計20点である.
分析方法:「音楽活動」と「創作活動」に対する取り組み方の違いを明らかにするために, 対象者の同一週内の音楽活動時と創作活動時のASEAの総点および各項目得点を比較した. 統計解析は, Wilcoxson順位符号和検定を用いた. 有意水準は5%未満とした. さらに, 認知症患者に音楽活動, 創作活動に取り組んでいただくために工夫している事について, 作業療法士に自由記述アンケートを求めた.
倫理的配慮:本研究は社会医療法人北斗会倫理委員会より, オプトアウト方式にて承認された(承認番号:2018‐10).
【結果】除外基準を満たした者は除外した結果, 分析対象者は20名,対象者の年齢へ平均82.8歳±7.3,男性6名,女性14名,認知症高齢者の日常生活自立度は全対象者でランクⅯであった. ASEAの総点は, 音楽活動時14.3±2.6点であった. 創作活動時13.3±3.3点となった.総点および各項目の得点差について, 全ての項目で有意な差は認められず, 「参加」および「他患者との交流」の活動間における得点差に有意な傾向が認められた(p<0.1; Wilcoxson順位符号和検定). 自由記述には,「創作活動では認知機能の程度に合わせた作業・工程を担ってもらいやすいよう小集団を作っており, 交流も促している」,「生活史の回想を促す声掛けをしている」「音楽活動は先に音楽をかけて参加しやすくしている」「歌えなくても手拍子やリズムをとってもらい楽しんでもらっている」などの回答が得られた.
【考察】Gagnon,et al.(2009)は,認知症者は進行しても健常時と同様に音楽を楽しめると述べており,音楽活動はBPSDを呈している重度の認知症患者にはより適していると思われた. しかし, 今回, 音楽活動と創作活動での取り組み方の違いに有意な差はみられなかった. これはアンケート結果にあるように「音楽ではより参加しやすいように」や「創作では能力に合わせた集団の形成や作業・工程の提供」といった活動の取り組み方が良くなるよう作業療法士によって工夫が出来ていることが要因とも考えられた.
【方法】対象者:2019年1月~12月に入院されOT開始となった認知症患者を対象とした. 除外基準は, 評価対象時期1週間以内に抗精神病薬などの処方により明らかに覚醒度が低下し, 作業療法に参加できなかった者とした.
用いる評価:年齢, 性別, 疾患を診療録より確認した. ASEAは進行期の認知症者への治療的な活動に対する取り組み方を臨床の中で簡便に観察評価できる信頼性・妥当性が担保された尺度であり(Tanaka, Umeda, et al., 2021, 2022)「参加」開始」「継続」「正確さ」「覚醒度」「他患者との交流」「集団への交流」「スタッフからの関り」「ポジティブな感情表出」「ネガティブな感情表出」の合計10項目からなり各項目は3件法で0-2点の合計20点である.
分析方法:「音楽活動」と「創作活動」に対する取り組み方の違いを明らかにするために, 対象者の同一週内の音楽活動時と創作活動時のASEAの総点および各項目得点を比較した. 統計解析は, Wilcoxson順位符号和検定を用いた. 有意水準は5%未満とした. さらに, 認知症患者に音楽活動, 創作活動に取り組んでいただくために工夫している事について, 作業療法士に自由記述アンケートを求めた.
倫理的配慮:本研究は社会医療法人北斗会倫理委員会より, オプトアウト方式にて承認された(承認番号:2018‐10).
【結果】除外基準を満たした者は除外した結果, 分析対象者は20名,対象者の年齢へ平均82.8歳±7.3,男性6名,女性14名,認知症高齢者の日常生活自立度は全対象者でランクⅯであった. ASEAの総点は, 音楽活動時14.3±2.6点であった. 創作活動時13.3±3.3点となった.総点および各項目の得点差について, 全ての項目で有意な差は認められず, 「参加」および「他患者との交流」の活動間における得点差に有意な傾向が認められた(p<0.1; Wilcoxson順位符号和検定). 自由記述には,「創作活動では認知機能の程度に合わせた作業・工程を担ってもらいやすいよう小集団を作っており, 交流も促している」,「生活史の回想を促す声掛けをしている」「音楽活動は先に音楽をかけて参加しやすくしている」「歌えなくても手拍子やリズムをとってもらい楽しんでもらっている」などの回答が得られた.
【考察】Gagnon,et al.(2009)は,認知症者は進行しても健常時と同様に音楽を楽しめると述べており,音楽活動はBPSDを呈している重度の認知症患者にはより適していると思われた. しかし, 今回, 音楽活動と創作活動での取り組み方の違いに有意な差はみられなかった. これはアンケート結果にあるように「音楽ではより参加しやすいように」や「創作では能力に合わせた集団の形成や作業・工程の提供」といった活動の取り組み方が良くなるよう作業療法士によって工夫が出来ていることが要因とも考えられた.