第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-4] ポスター:精神障害 4

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PH-4-7] OSA-Ⅱを用いた介入が,支援方針の明確化と交流技能が改善した統合失調症事例

熊谷 なつめ1, 佐藤 範明1,2, 古賀 誠1,2, 小林 崇志1,2 (1.昭和大学附属烏山病院リハビリテーション室, 2.昭和大学保健医療学部作業療法学科)

【はじめに】 
 本事例は,入院が長期化して作業療法(以下OT)参加が形骸化していた.筆者は,非構成的評価中心による解釈では,事例の全体像を捉えることや,OT支援方針の決定に困難を感じていた.
 今回,構成的評価である作業に関する自己評価・改訂版(以下OSA-Ⅱ)を使用して,OT支援が明確化したことで他者交流技能が改善した.事例自身も視覚的に変化を感じることができた.本報告の目的はOSA-Ⅱを使用した目標の共有と支援方針の明確化が技能向上に与える有用性を検討することである. 本報告にあたり,本人の同意及び所属施設倫理委員会の承認を得ている.
【事例紹介】 
 40歳代男性.統合失調症.家族に暴力を振るい,精神科救急病棟に措置入院となった.入院が長期化して一般病棟に転棟後,OT開始1カ月(週5日)が経過した.
【作業療法初期評価と介入方針】 
 人間作業モデルの概念に基づき,病棟生活,OT参加時の言動の観察等から非構成的評価を行った. 〈作業同一性・有能性〉不明確〈興味〉バイク. OTでは音楽鑑賞,映画鑑賞.〈価値〉OT参加の目的や今後の目標が不明確.〈個人的原因帰属〉能力の自己認識・自己効力感は不明.〈習慣〉OTは習慣化したが,OT時間以外は病室で過ごす.〈役割〉主体となる役割がない.〈コミュニケーションと交流技能〉自発的他患交流は見られない.〈処理技能〉問題の焦点化,解決のための順序立てに支援を要する.〈運動技能〉問題ない.〈社会的環境〉退院先が未定.家族は非協力的.〈物理的環境〉閉鎖病棟,相談相手がいない,OTプログラム.
 本事例は処理技能が乏しく,自身の問題点の抽出や順序立てが困難であった.また今後の方針が定まらずOT参加が形骸化したと考えた.OT介入の方針の明確化することと,目標の協業が重要と考え,OSA-Ⅱによる見直しを計画した.
【結果】 
 OSA-Ⅱの自分についての改善したい項目の優先順位は「他人とうまくやっている」「他人に自分を表現する」を挙げ,他者交流技能の改善を希望した.環境の改善したい項目の優先順位に「自分を支え励ましてくれる人」「自分と一緒にやってくれる人」を挙げ,人と親和的になることを希望した.そこで,他者交流技能の練習,自己表現をすることを目標とした.介入内容は筆者がOTプログラム内で事例と他患交流促進のための話題提供を行い,担当看護学生との交流機会を促した.個別として週1回の他者交流についてのフィードバックと,相談関係を構築のため,毎日OT時間外での対話を1カ月間行った.
【OT経過と再評価】 
 事例はOT時間内外の他患交流機会,プログラムでの発言機会が増え,医療者への相談も躊躇うことなくできた.更に,事例自身が他の他者交流技能の課題を自覚し,希望の退院先を述べるように変化した.
 再度OSA-Ⅱを実施した.改善したい優先順位項目にあげた「他人に自分を表現する」のスコアが改善を示した.環境の「自分を支え励ましてくれる人」「自分と一緒にやってくれる人」のスコア改善が認められた.
【考察】 
 OSA-Ⅱは,形骸化したOT利用が続く事例との協業を促進した.事例にとって,入院が長期化したところで,新たに「自分を支え励ましてくれる人」「自分と一緒にやってくれる人」という環境面が改善したと同時に,筆者と目標や課題を具体化でき,治療の動機づけが高まった.事例が目標達成に向けて主体的に取り組んだ結果,他者交流技能が改善したと考えた.OSA-Ⅱを用いたOT介入は,目標の共有に加えて技能改善の一端を担い有用であると考える.