[PH-5-2] 重要度の高い作業を目標として共有できたことで地域移行に至った統合失調症者の1例
【はじめに】近年,医療機関での精神障害者に対する作業療法(OT)には,入院期間の短縮や地域移行支援の役割が求められており(厚生労働省,2004),地域移行のためには適切な目標設定が重要である.今回,事例本人にとって重要度の高い作業を目標とすることでクライエントと目標を適切に共有することができ,それによりスムーズな地域移行に至ったため,その過程を報告する.なお本発表に際し文書にて本人の同意を得た.
【事例紹介】A氏,30歳代女性,診断名は統合失調症.10歳時より他院への通院歴があるものの,抗精神病薬の服用は不規則であった.X年Y月に職場で生じた人間関係のトラブルを契機に,洗濯洗剤500mlを飲用し自殺を図った.本人の要請で当院へ救急搬送され,救急治療のあと精神神経科に転科し,精神症状に対する薬物治療およびOTが実施された.Y +3ヶ月に退院し,退院10日後に外来OTを開始した.同時に週1回の訪問看護が導入されている.
【OT評価】退院時の生活機能(GAF)は75点であった.初回外来時,作業に関する自己評価(OSA-Ⅱ)を用いて作業面接を行ったところ,「6ヶ月以内に就労関連の施設1ヶ所以上へ見学に行く」ことが目標として共有された.目標の意味を尋ねると,A氏は「役割が欲しい」と発言した.当目標に対するカナダ作業遂行測定(COPM)は,重要度7,遂行度5,満足度1で,地域生活に対する自己効力感尺度(SECL)は合計121/180点であった.特に,人付き合いの項目は2/10点,再発サインへの対処は5/10点と低値であった.実際にA氏は入院当初から対人緊張が高く,外来の集団プログラムでも他の参加者と話さないように距離を取っていた.
【介入経過】評価結果より,目標達成に対するA氏の課題は「対人交流の苦手さ」と「疾患管理の不十分さ」であると考えられた.外来OTでは,就労施設での作業遂行に向けた個別活動,対人交流を促すための集団スポーツ,疾患管理を促すための心理教育プログラムへ週3回の頻度で参加した.個別活動では,漢字の書き取り課題を行い,作業に対する集中度や疲労感,遂行時間をモニタリングすることで作業遂行に対する自己洞察を促した.集団スポーツ(ゲートボール)は,参加を重ねるごとに他参加者と談笑する時間が増えていった.心理教育では,「緊張する」と話しながらも,自身のストレス対処や服薬の工夫をグループ全体の前で発表し,OTの促しで会話のロールプレイにも挑戦した.OTは個別活動時に適宜面接の機会を設け,目標に対する進捗状況を共有しながらプログラム中の様子をフィードバックした.
【結果】COPMは,介入開始から3ヶ月後では重要度7,遂行度7,満足度3,6ヶ月後では重要度8,遂行度10,満足度9であった.SECLは,3ヶ月後では136点,6ヶ月後では137点であった.A氏は介入開始から6ヶ月目に就労継続支援B型事業所2ヶ所を見学および体験し目標を達成し,その翌月からの利用を目指し自ら利用契約を結んだ.さらにA氏は,新たな長期目標として「1年後に就労継続支援A型事業所へ移行すること」を挙げるなど,次のステップに向け主体的な姿勢を示した.
【考察】A氏の地域移行の実現には,重要度の高い作業を目標として設定し,それを共有できたことが奏功したと考えられる.目標設定に基づくリハビリテーションは,対象者の自己効力感を高めるとされており(Levack, 2015),A氏は目標設定により目的意識を持ってOTに参加したことで,自己効力感が向上し,主体的な行動が促されたと考える.本報告より,本人にとって重要な作業に焦点を当てた目標を設定し適切に共有しながらOTを実施することが,対象者の地域移行を促す支援の一端となる可能性が示唆された.
【事例紹介】A氏,30歳代女性,診断名は統合失調症.10歳時より他院への通院歴があるものの,抗精神病薬の服用は不規則であった.X年Y月に職場で生じた人間関係のトラブルを契機に,洗濯洗剤500mlを飲用し自殺を図った.本人の要請で当院へ救急搬送され,救急治療のあと精神神経科に転科し,精神症状に対する薬物治療およびOTが実施された.Y +3ヶ月に退院し,退院10日後に外来OTを開始した.同時に週1回の訪問看護が導入されている.
【OT評価】退院時の生活機能(GAF)は75点であった.初回外来時,作業に関する自己評価(OSA-Ⅱ)を用いて作業面接を行ったところ,「6ヶ月以内に就労関連の施設1ヶ所以上へ見学に行く」ことが目標として共有された.目標の意味を尋ねると,A氏は「役割が欲しい」と発言した.当目標に対するカナダ作業遂行測定(COPM)は,重要度7,遂行度5,満足度1で,地域生活に対する自己効力感尺度(SECL)は合計121/180点であった.特に,人付き合いの項目は2/10点,再発サインへの対処は5/10点と低値であった.実際にA氏は入院当初から対人緊張が高く,外来の集団プログラムでも他の参加者と話さないように距離を取っていた.
【介入経過】評価結果より,目標達成に対するA氏の課題は「対人交流の苦手さ」と「疾患管理の不十分さ」であると考えられた.外来OTでは,就労施設での作業遂行に向けた個別活動,対人交流を促すための集団スポーツ,疾患管理を促すための心理教育プログラムへ週3回の頻度で参加した.個別活動では,漢字の書き取り課題を行い,作業に対する集中度や疲労感,遂行時間をモニタリングすることで作業遂行に対する自己洞察を促した.集団スポーツ(ゲートボール)は,参加を重ねるごとに他参加者と談笑する時間が増えていった.心理教育では,「緊張する」と話しながらも,自身のストレス対処や服薬の工夫をグループ全体の前で発表し,OTの促しで会話のロールプレイにも挑戦した.OTは個別活動時に適宜面接の機会を設け,目標に対する進捗状況を共有しながらプログラム中の様子をフィードバックした.
【結果】COPMは,介入開始から3ヶ月後では重要度7,遂行度7,満足度3,6ヶ月後では重要度8,遂行度10,満足度9であった.SECLは,3ヶ月後では136点,6ヶ月後では137点であった.A氏は介入開始から6ヶ月目に就労継続支援B型事業所2ヶ所を見学および体験し目標を達成し,その翌月からの利用を目指し自ら利用契約を結んだ.さらにA氏は,新たな長期目標として「1年後に就労継続支援A型事業所へ移行すること」を挙げるなど,次のステップに向け主体的な姿勢を示した.
【考察】A氏の地域移行の実現には,重要度の高い作業を目標として設定し,それを共有できたことが奏功したと考えられる.目標設定に基づくリハビリテーションは,対象者の自己効力感を高めるとされており(Levack, 2015),A氏は目標設定により目的意識を持ってOTに参加したことで,自己効力感が向上し,主体的な行動が促されたと考える.本報告より,本人にとって重要な作業に焦点を当てた目標を設定し適切に共有しながらOTを実施することが,対象者の地域移行を促す支援の一端となる可能性が示唆された.