第57回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-5] ポスター:精神障害 5

Fri. Nov 10, 2023 4:00 PM - 5:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PH-5-4] 精神科ショートケア長期利用者に対する就労支援

西村 優子1, 谷藤 貴紀1, 橋本 健志2, 木村 敦1, 四本 かやの2 (1.神戸大学医学部附属病院, 2.神戸大学大学院保健学研究科)

【はじめに】就労支援に関して,精神症状の重症度や職業前訓練が就労達成率には影響がない(Anthony WA, Jansen MA,1984;Bond GR,1998)が,臨床ではリスク回避の点からスモールステップで段階的な支援が行われている.就労を希望するものの精神科ショートケア(以下SC)利用が長期化していた事例に対し,ストレス因の理解と対処法の獲得を促す関わりにより,就労に至った.長期化の理由を精査し,対象者と一緒に振り返ることと対象者の価値観に沿った支援の重要性を報告する.
【事例紹介】A氏は20歳代後半の女性.高校卒業後,飲食店に勤務したが叱責される状態が続き2年後に退職すると同時に,離人感を訴え精神科受診した.WAIS-IIIはIQ59(言語理解59,知覚統合59,作動記憶67,処理速度69)で軽度知的障害と解離性障害と診断された.就労支援を目的にSCが開始されたが,参加が不定期で利用が安定せず3回の半年程度の長期欠席を含み開始から6年経過していた.事例から報告の同意を書面で得た.
【OT評価・方針】週3-4回のSC参加を3 ヵ月間継続していた.仕事に対するCOPMは重要度8,遂行度1,満足度1であり,「他利用者が就職した就労継続支援A型事業所(以下A型事業所)で働きたいという希望はあるが,調子を崩す季節がくるから辞めないといけなくなる」と述べ,見学に行く時期を決められなかった.記録ではA氏の不調は季節性でなかったため,不調につながるストレス因を理解し,対処法を獲得することを目標として共有した.個別でSC開始以降の経過を作業療法士(以下OT)と振り返ることとした.振り返りには,事前にOTが作成した参加回数をグラフ化した用紙(以下資料)と,参加時の体調をOTと共有するために以前から導入していたSC日記を使用することとした.
【経過】ストレス因の理解:資料を見ながら,OTと一緒に参加状態を振り返り,不調時について共有した.次に,参加回数が減少している時期のSC日記をOTと見返して,その理由となる記載を抽出し,A氏が用紙に記入した.その後,共通のストレス因を一緒に考え,「家族関係で毎回落ち込む」ことを見出し,共有した.
対処法の獲得:A氏が既に使用しているストレス対処法と新たにOTが提案しA氏が受け入れた対処法を,場面によって選択しやすくするため“家で/外で”,“一人で/他者と一緒に”することに分類し,記録した.SC参加時に,実施したストレス対処法にA氏がチェックをし,その効果をOTと振り返り,適切な対処行動ができたことを確認した.3週間後,「家にいるとしんどいから外に出た方がいいと思った」と述べ,希望していたA型事業所の見学に行くことを決めた.初めての場面もストレス因になることを共有し,A氏はOTと一緒に見学に行くことを希望した.
【結果】1ヵ月後,週5日勤務のA型事業所を見学後,利用することを決め,通所開始した.COPMは遂行度8,満足度10と改善し,SCを終了した.
【考察】A氏はSC利用が長期化していたが,就労経験があり,COPMの結果から仕事に対する重要度は高かった.A氏が希望しているA型事業所に就労することを目標として共有し,課題であったストレスマネジメントが可能になったことにより就労に至った.ストレスマネジメント獲得には,A氏の就労に対する高い重要度,OTの過去の記録の精査,対象者が理解できる可視化ツールの使用,ストレス対処法の発見と使用およびそのモニタリングが貢献したと考える.精神科デイケア等の漫然とした長期利用の問題が指摘されているが(厚労省,2019),長期化の理由を精査し,対象者と一緒に振り返ること,対象者の価値観に沿った支援を行うことが解決策の一つとなり得ると考える.