第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-6] ポスター:精神障害 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PH-6-2] 精神科デイケアと就労移行支援事業所との連携

浦川 瑞生1, 小川 泰弘1,3, 武田 由佳2, 井坂 昭久2, 田口 功1 (1.社会医療法人北斗会さわ病院デイケアセンター, 2.社会医療法人北斗会さわ病院ときヨシエンタープライズ, 3.森ノ宮医療大学総合リハビリテーション学部作業療法学科)

【序論】精神科デイケア(以下,DC)で実施される就労支援は,DC内の集団活動を用いた職業準備性を高める支援と,就労支援施設や職場等の外部機関との連携に大別される.連携に着目した際には,作業療法士(以下,OT)の専門性の一つである機能面のアセスメントをいかに活用するかは,効果的な連携のために重要な観点である.
【目的】DCと就労移行支援(以下,移行支援)を併用する中で,DCの担当OT (以下,OTR)が機能面のアセスメントの「過程」を移行支援の生活支援員(以下,支援員)と共有していくことで連携が促進された事例の支援経過を整理し,連携におけるアセスメント過程の共有がもつ意義を検討することを本発表の目的とする.発表に際し,書面にて対象者の同意を得るとともに,所属機関の倫理審査委員会の承認を得ている.
【事例】A氏,40歳代後半男性,診断名は統合失調症.X−13年よりDC通所開始.精神症状は落ち着いており,ご本人の希望に基づいてDCと併用して移行支援の利用が開始された.移行支援にOTの配属はなく,訓練場面での対応は主に非専門職である支援員が担っていた.
【経過】X年Y月〜:訓練内容が高度になるにつれ作業遂行上のエラーが目立ち始め,支援員が指導するも思うように改善しない状況が続いていた.支援員は徐々に疲弊し,A氏に否定的な感情までも抱くようになる.次第にA氏自身のストレスも増大し,焦りが助長され,エラーを繰り返すといった悪循環に陥った.X年Y+10月〜:上記作業遂行上の問題の背景には,認知機能障害があると見立て,OTRより,DCの神経認知機能リハビリ(以下,認知リハ)をA氏と移行支援側に提案し,導入された.しかし開始時の認知機能検査(BACS―J)では,現場の困り感に反して,顕著な障害は見られなかった(Composite score=0.03).A氏の特性を理解していくため,協働して支援をしたいことを支援員に伝え,OTR視点での一連のアセスメント過程を共有していった.具体的には,アセスメントのために用いる手段や目的,得られた結果の解釈を伝え,アセスメントした内容を実際の訓練場面にどう適用するかについて,支援員の視点や考え方を中心に据えながらの協議を繰り返した.
【結果】支援員より,上記のアセスメント過程の共有を経て理解が深まったというフィードバックを受けた.次第に支援員は,A氏にとってプラスになる関わり方や指導方法についてのアドバイスをOTRに求めるようになった.その結果,A氏の機能障害に対して支援者の対応を含めた環境調整が必要な部分と,A氏が自身の課題として取り組む部分の棲み分けが可能となった.支援員の態度や関わり方におけるポジティブな変化に伴い,A氏の感じるストレスや焦りが減少し,A氏にとって良い状態で訓練に取り組むことができるようになった.
【考察】アセスメント過程の共有を軸にした連携により,OTRと支援員の協働体制が構築された.その要因として,OTRのアセスメントの手段,およびその結果と解釈に対する支援員の関心の高まりに伴い,支援員が移行支援の現場の中で自らの役割や支援のあり方について試行錯誤するという変化が生じたことが影響したと考えられる.一般的に,連携においては,アセスメントの「結果」が情報としてやり取りされることが多い.本実践より,アセスメントの「過程」の共有は,単に専門的なスキルをもって相手に情報を伝える手段にとどまらず,連携に重要な要素とされる,異なる職種間の異なる価値観の相互理解にも役立つという意義を持つかもしれない.