第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-11] ポスター:発達障害 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PI-11-5] 自閉スペクトラム症の障害特性に関する知識と職員の支援に関する自己認識の構造的関連性の検討

田中 善信1,2, 倉澤 茂樹1, 大井 直往2 (1.福島県立医科大学保健科学部作業療法学科, 2.福島県立医科大学リハビリテーション医学講座)

【序論】放課後等デイサービス職員の専門性や活動内容における質の低下が問題視され,職員の専門性の担保や支援の質,人材の知識・技術の向上の機会を確保することが求められている.しかし支援者の,発達障害に対する知識に関する研究は少なく,支援の質の向上への対策の方向性は明らかにされていない.
【目的】本研究は,放課後等デイサービスの一般職員における自閉スペクトラム症(以下,ASD)の知識と,職員の支援に関する自己認識との関連性を検討し,職員の知識向上のための手がかりを得ることを目的とした.
【方法】
本研究は,福島県に所在する放課後等デイサービス,全194施設(令和2年10月時点)の一般職員を対象とした.まず,施設管理者に調査協力を依頼し,研究参加の可否を調査した.研究参加の同意が得られた施設には,職員人数分の調査票一式(調査票,同意説明文書,調査票回収用の封筒),回収袋,返信用封筒を送付し,調査票記入後の返信を依頼した.調査票は,基本属性,ASD障害特性知識尺度(以下,LS-ASD),職員の支援に関する自己認識アンケート(以下,職員アンケート)を用いた.データ収集期間は,令和3年2月中旬から6月下旬であった.なお,調査票の返送をもって研究参加の意思を確認した.解析方法は,職員アンケートについて,構造方程式モデリング(以下,SEM)の潜在変数を得るために探索的因子分析(最尤法・直接オブリミン法)を実施し,因子抽出と変数の相互関係を確認した.次に,LS-ASDの総得点と職員アンケートとの因果関係モデルを仮定し,適合性と変数間の関連性をSEMで検討した.モデルの適合性指標は,標準化推定値(以下,パス係数),GFI(Good of Fit Index),RMSEA(Root Mean Square Error of Approximation)を採用し,推定されたパス係数の有意水準は5%とした.統計解析にはIBM SPSS Statistics ver.28とAMOS ver.28を用いた.なお,本研究は研究代表者の所属機関倫理委員会の承認を得て実施し,開示すべき利益相反する企業等はない.
【結果】
福島県内194施設に研究参加を依頼し,62施設から研究参加協力の同意が得られ(参加率32.0%),そのうち58施設の一般職員315名(回収率69.7%)から回答を得た.また,調査票の記載内容に欠損があった13名を除外し,302名を分析対象として採用した.因子分析では第1~4因子が抽出され,Kaiser-Meyer-Olkinの測度は0.85,Bartlettの球面性検定はp<0.001であり,因子分析を適用することの妥当性は保証された.なお,第1因子『意欲』,第2因子『知識の自己認識』,第3因子『情報共有』,第4因子『自信』と命名した.SEMでは,まず4因子すべてがLS-ASDに影響を及ぼすと仮定して分析を行ったが,『情報共有』,『意欲』からLS-ASD得点へのパス係数は有意ではなかった.そこで有意でなかったパスを削除し,再度分析を行ったところ,モデルの適合度はGFI=.890,RMSEA=.086となり,各矢印の標準化係数は5%水準ですべて有意であった.最終的なモデルでは,『知識の自己認識』からLS-ASD得点に対して正の直接効果を示した(パス係数,0.64).また,『自信』からLS-ASD得点に対しては,負の直接効果が認められた(パス係数,-0.22).
【考察】
子どもの定型発達やアセスメントの方法について理解しているという,具体的な側面に対するポジティブな認識が知識に影響を与えている.また,支援を行うことや課題把握への自信が過信となり,知識の定着を妨げる可能性があることが示唆された.知識を高めるための取り組みは,知識を教授する研修会だけではなく,職員の自己効力感を高める取り組みが必要であると同時に,自分自身の能力を正確に見定める指標を確立する必要がある.