第57回日本作業療法学会

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ポスター

発達障害

[PI-6] ポスター:発達障害 6

Fri. Nov 10, 2023 5:00 PM - 6:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PI-6-6] 身体拘束のために必要だった肘装具の装着時間を減らす取り組み

奥田 祥司1,2 (1.宝塚医療大学和歌山保健医療学部リハビリテーション学科作業療法学専攻, 2.堺市立重症心身障害者(児)支援センター)

【はじめに】医療的ケア児は近年増加傾向にあり,教育との連携や多職種との連携などの実践報告がされている.しかし,施設入所後の重症心身障害者を対象とした実践報告は,近年は少なくなっている.本研究では,重症心身障害者のカニューレ自己抜去防止のために肘装具を装着している方に,手の機能,家族との関係性に着目し,肘装具装着時間を減らす取り組みを行い一定の成果を得たので報告する.今回の報告にはご家族に口頭で説明し同意を得た.
【事例紹介】症例は,30歳代後半の脳性麻痺四肢麻痺男性.20歳代後半に胃瘻増設し,その後在宅での介護が難しくなり施設入所となる.30歳代前半時に呼吸停止で緊急搬送され,喉頭気管分離術を受けカニューレ装着となった.重度の側弯を呈しているが上肢・手の運動性は高く,カニューレの自己抜去が頻繁に起きるためやむなく肘装具を装着した.しかし,ご家族と一緒の時は,自己抜去することが少なかった.30歳代後半にカニューレ除去を目的に声門閉鎖術を行った.術後カニューレ除去となったが,気管孔に指が入る課題が出現し肘装具は外なかった.
【目標と方針】肘装具装着時間を減らすことを目標とし,上肢・手の機能,家族を含めた生活環境を評価し取り組んだ.
【作業療法評価】酸素チューブ等を引っ張ることができるが持続的に物を把持することはできなかったことから明確な目的的な行為ではなく,手が安定できる場所を探す中でチューブ等を弄っているように見えた.そのため,手への気づきは高くないと評価した.ご家族と接している際のカニューレの自己抜去が少ない原因を探るために,ご家族と本氏のこれまでの生活歴で築いてこられた関係性や何を大切にされてきたのかを知るために生活史のインタビューを行なった.
【作業療法経過】手への認識を高めていくような関わりから始め,持続的に物を把持することができるようになっていた.その過程で本氏がご家族と関わる時に見せる表情から本氏とご家族の関係性に着目し,インタビューを実施した.ご家族より外出が大好きなこと,重度の運動障害にも関わらずトイレで排泄されていたエピソードなどを得た.ご家族の協働を得つつ作業療法活動に取り組み,従重力下で手を見ながらリーチできる活動に取り組んだ.
【結果】リーチして触れた対象の触感や音の変化,周りの人からの励ましの声で自発運動が増え,短時間であれば物の把持できるようになってきた.それに伴い見守りレベルで日中活動の時に肘装具を外して参加する時間が作れるようになった.また,座位保持上ではマスク等を引っ張ることが減っていた.
【考察】自発的な上肢の動きが増えたことで肩甲帯の安定性も高まり,自身で動かすことができる「自分の手」であるという身体所有感を持つことができ,座位保持上でも手を落ち着いて「置く」ことができるようになった.ご家族からのインタビューで得た情報から入所以前の豊かな生活世界を知り,本氏にとって作業療法士がより家族に近い暮らしを提供してくれる存在と認められ,装具を外す時間が増えた成果に繋がった.
 また,本氏のように重度の運動障害がある方は,年齢を重ねるごとに胃瘻や気管切開などの観血的な処置を受けられることがある.作業療法士は,現状の身体的,精神的な評価だけではなく,ご家族と一緒に暮らしてこられた時間について振り返り,対象者が安心して暮らしていけるような生活環境を整えていくことが求められている.重症心身障害者は,言語的に要望を伝えてくることは難しいが,あなたとなら一緒にできる(してみたい)という関係性を創っていくことが重要であったと考える.