第57回日本作業療法学会

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ポスター

発達障害

[PI-9] ポスター:発達障害 9

Sat. Nov 11, 2023 12:10 PM - 1:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PI-9-3] 作業療法における応用行動分析(ABA)と行動の変容を及ぼした一例

金城 光1, 八重樫 貴之2 (1.江東区こども発達センター塩浜CoCo, 2.株式会社リニエR)

【はじめに】
 小児発達領域の作業療法士(以下,OT)は感覚統合理論,神経生理学的アプローチ,TEACCHや応用行動分析(以下,ABA)を基に評価,支援を行うことが多い. ABAは行動の「きっかけ」と「結果」に着目し関わりや環境を調整することで行動変容を促すものである.ここで使われるのが「Antecedent=行動前のきっかけ→Behavior=行動→Consequence=行動の結果」で考えられるABC分析である.ABAでは行動の直後に得られるメリット(好子や強化子と呼ぶ)により,その行動を適応的な行動(または負の行動)として強化できる.このことから保護者や療育者の困りごと,子育て支援などに用いられている.今回,他職種の要望から児童発達支援で拒否が強い児に対しOT個別指導においてABAを用いたアプローチを行い,子どもの行動において良好な変化が認められたので報告する.なお本研究発表を行うにあたり開示すべきCOIはなく,保護者からの同意も得ている.
【症例紹介】
 本症例は4歳女児,A施設に週3回の頻度で児童発達支援を利用している.通所するクラスでは物を持って歩き回るか座り込んでいることが多い.運動活動に対する拒否は強く自発行動は少ない.他職種の困り事として「タオルブランコはタオルを見ただけで怒り泣きする」「物を取る事はできるが入れる事ができず,手元への注目も少ない」ことが挙げられた.
OT評価として「姿勢の不安定性,頭や眼球コントロールの未熟さ,重力や姿勢変換に対する不安」など前庭感覚や固有感覚の未統合や偏りが挙げられた.日常生活や遊びにおいてこれらの感覚や機能を用いた環境への関わりを回避することが,目と手の協調の発達にも影響を及ぼしていると考えられた.ABC分析では児の行動は「A揺れた経験のある遊び→B拒否や怒り泣き→C揺れの軽減や回避」と考えられた.以上のことから,個別指導目的として「前庭感覚を伴う遊びを自主的に楽しむ」「目と手を協調させた遊びや探索,試行錯誤が増える」を挙げた.
【方法】
 通常行うような個別指導では強い拒否が予想された為,児の行動をABC分析しプログラム立案を行なった.行動の前のきっかけに対するアプローチとして「普段用いない玩具や遊具,設定を用いる」「拒否状況を作らないため姿勢や頭位を保障する」「揺れに関しては自発的な関りを待つ」こととし,自発的な関りが出た時には好きな遊びや大人から称賛で行動の強化を行う事とした.
【結果】
 遊びへの拒否は少なく,自発的な関わりを好きな遊びや称賛で強化していくことで段差やクッションを使ったサーキット遊びを繰り返す,揺れる板の上に何度も乗る自発的な関りが繰り返された.その後1か月で滑り台を高這いで登ったり坐位や伏臥位で滑って遊ぶ,視覚的に確認しくるくるチャイムにボールを入れる様子がみられた.また,クラスや自宅でも「大型遊具に自主的に関わる」「手元への注目や物を入れる遊びが広がる」「バランスボールを使って遊ぶ」ようになった.
【考察】
 今回,取り組みたい課題と本児の苦手な感覚や遊びが重なっていた為,そのままの遊びの提供では拒否の増大や少しだけやってやめるなど負の行動が強化されると考えられた.ABC分析によるプログラムでは,きっかけ 「A揺れた経験のある遊び」に対する環境調整や支援を行う事で児の行動が拒否や怒り泣きから自発的な遊具への関わりへと変容し,行動が繰り返さたと考えられる.児の行動が変容したことで新たな経験が蓄積され,その結果として身体機能の発達や自主性の発露が促進され「大型遊具を自主的に楽しむ」「くるくるチャイムなどの遊びを行う」ことに繋がったのではないかと考えられる.