第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-3] ポスター:高齢期 3

2023年11月10日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (展示棟)

[PJ-3-2] 高齢者の閉じこもりに対しての,意味のある作業への支援によって能動的に生活を送るようになった一例.

小林 佳弘, 廣田 真由子 (ふれあい東戸塚ホスピタルリハビリテーション科)

【はじめに】身体能力はあるにもかかわらず,有料老人ホームの自室に閉じこもりがちな高齢者の訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)に携わる機会を得た.この高齢者に対し,作業に焦点を当てたクライアント中心の理論である人間作業モデル(以下,MOHO)に基づいた面接を用いて,事例にとって意味のある作業を明らかにし実践することで,事例が能動的な生活を送れるようになった経験を得られたためここに報告する.なお,本報告での意味のある作業とは,本人が価値を感じる作業と定義する.
【事例紹介】A氏,80歳代女性.施設に入居して10年.御朱印集めや屋外で写真撮影をするなど活動的であったが,脳梗塞を発症後は外出の機会が減少した.軽度右片麻痺と言語障害が残存し, 短期記憶障害に加えて,変形性膝関節症の膝疼痛により杖歩行となり,次第に閉じこもりがちとなった.本報告に際し当院の承認とA氏より同意を得ている.
【作業療法評価】日常生活は自立しており,機能的自立度評価表(以下,FIM)は79点/126点(運動項目55点,認知項目24点)であった.しかしながら,日中は閉じこもりがちであり,受動的な生活を送っていた.事例との協業を促進するために,MOHOとクライアント中心の実践の両者を理論的基礎としている作業に関する自己評価-改訂版(以下,OSA2)を用いて面接を実施した.その結果,MOHOの構成要素のうちの意志にあたる[自分の好きな活動を行う],環境にあたる[自分が行けて楽しめる場所]はどちらも問題あり,非常に大事であった.面接の中で好きな活動については散歩という作業を上げ,強い価値を置いていたが,実際には行えていなかった.
【介入の基本方針と計画】理学療法士から担当を移行し,週に1回,40分の作業療法を実施した.A氏にとって意味のある作業である散歩を,共に行うことを作業として採用し,能動的に作業に参加できる生活の獲得を基本方針とした.初めは,短距離から開始し,段階的に負荷量を増やした.
【介入経過】
第1期(介入開始~1カ月):導入当初は距離等について,予め設定しA氏と共に作業を開始した.当初は受動的であったが,作業を数回繰り返すと,「こういうのがしたかった.前はこんな風にやってた,楽しかったの.」と語り,能動的に作業に参加した.
第2期(2カ月目):楽しめる場所の探索と拡大を図る為,当施設の介護予防運動とティータイムの参加を新たに作業として導入した.これらの作業の参加は自由であることを伝え,いつでも行くことができる場所であることを保証した.作業時には最小限の声掛けをする程度とし,その後,A氏は作業内容と場所を自ら企画し参加するようになった. 他者と作業を共有することで,交流機会が生まれた.
第3期(3カ月目):訪問リハ以外の時間で散歩が日課となり,膝疼痛の悪化を防ぐため,運動や休息の自己管理が可能となった.自室中心から屋外へと作業の幅が広がり,他者を散歩やオセロ等の作業に能動的に誘うなど,交流機会を自ら持つようになった.
【結果】OSA2を再実施した結果,[自分の好きな活動を行う],[自分が行けて楽しめる場所]が共に問題ありから非常に良い,非常に大事へと改善し,作業に楽しみと満足を見出した.FIMでは社会的交流のみが4点から6点へと向上した. A氏は散歩が日課となり,生活面においても,他者を自ら自室に招き,余暇活動に誘うなど能動的な生活を送るようになった.
【考察】OSA2を用いて意味のある作業を明らかにし,交渉し,指導したことで改善に至った為,身体機能面だけでなく作業に焦点を当て,実際にする,している形へ支援することが訪問リハにおいても有用であると考えられた.