第57回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

高齢期

[PJ-5] ポスター:高齢期 5

Fri. Nov 10, 2023 4:00 PM - 5:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PJ-5-4] 作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)を用いた軽度認知障害者の生活機能改善に関する一考察

上城 憲司1, 兼田 絵美2, 見形 紘子3, 井上 忠俊4, 菅沼 一平5 (1.宝塚医療大学, 2.東京医療保健大学, 3.国保野上厚生総合病院, 4.平成医療短期大学, 5.京都橘大学)

【目的】
本報告の目的は,認知症カフェに参加した家族介護者及び軽度認知障害(以下,MCI)者を対象に作業選択意思決定支援ソフト(以下,ADOC)を用いた在宅生活支援について報告することである.なお,対象者に対し本報告の目的・方法・倫理的配慮等について,書面を用いて説明し同意を得た.その後,いつでも同意を取り消す権利があること,同意を取り消しても不利益がないこと,同意取り消し後のデータは,報告責任者が確実に破棄することなどを説明した.
【事例紹介】
 A氏,70歳代前半の男性,診断名はMCIである.性格は元来,頑固,怒りっぽい気性であり,趣味は魚釣り,将棋とのことであった.キーパーソンである妻(70歳代前半)との二人暮らし.
今回,認知症カフェ終了後に妻より個別に相談を受けた.そのため,グループホーム施設長の許可を得て,月1−2回,約60分の個別面談を行い,認知症の行動・心理症状(以下,BPSD)や日常生活活動(以下,ADL)等の対処法等のアドバイスを行った.
【初期評価】
1.A氏の評価:①認知機能はMMSE24点,②BPSDはDBD18点(昼間寝てばかりいる,口汚くののしる等に失点),③ADLはFIM89点,④ADOCでは重要度の高い順に「健康管理」「屋外の移動」「将棋」「排泄」「釣り」が挙げられた.また,満足度はすべて1点(全く満足していない)であった.
2.妻の評価:①介護負担感はJ-ZBI60点,②精神健康度はGHQ4点,③抑うつはGDS2点,④介護肯定感は介護肯定感尺度17点であった.
【結果】
ADOCを用いた介入の前後を比較した結果,A氏はADOCによって趣味活動として「将棋」を再開することができ,戦略を立てるための図書館通い等の行動変容によって生活機能の改善が認められた.また,妻においてもA氏の変化に伴い,介護負担感,精神健康度,介護肯定感の改善が認められた.
【考察】
近年,介護・認知症予防においても活動・参加のレベルの向上が求められている(島田2019).しかしながら,虚弱高齢者にとって趣味等の活動を新たに獲得することは,再開も含めて非常に難しい課題である.今回の結果は,A氏のようなMCI者においても,ADOCを利用することで自発的な活動選択とその実施を促進させる可能性を示すものである.一方,A氏の妻に関しては,介入後に介護負担感,精神健康度,介護肯定感の改善が認められ,面談では「まさか図書館に本を借りに行くとは思わなかった」「失禁の処理がなくなったため介護が楽になった」と語った.松本ら(2013)は,認知症に伴う精神症状は,介護者に苦痛をもたらし在宅介護を破綻させる大きな要因であると述べている.このことから妻の介護負担感等の改善には,A氏のBPSDの改善が影響を与えたと考えられる.
今後,作業療法士等の専門職による間接的な介入の機会が増加することが予想される.そのため本報告の経過及び結果は,MCI者を在宅介護する家族に対する一支援例になると考える.