第57回日本作業療法学会

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ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-10] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 10

Sat. Nov 11, 2023 2:10 PM - 3:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PK-10-5] 昭和30,40年代に記録された8mm Film映像を用いた回想療法の試行

浅野 朝秋1, 石山 友美2 (1.秋田大学医学部保健学科, 2.秋田公立美術大学)

【背景】
動画投稿サイトの普及により,昔のスポーツニュース等の映像を回想刺激として用いた回想療法の報告も散見されるようになった.回想刺激としては写真が広く用いられているが,動画の方が効果的な可能性は否定できない.しかし回想刺激として写真と動画を比較した報告は存在しない.またどのような動画を,どのように提示するのが効果的かについても定見は無い.
 8mmFilmは最長4分の映像が記録できる媒体であり,昭和30~40年代を中心に,個人が撮影した映像が多く残っている.同年代は現高齢者の若い頃に相当することから,回想刺激として8mmFilm映像は有望な可能性がある.本研究の目的は,個人が撮影した8mmFilm映像を用いた回想療法が効果的か,示唆を得ることである.
【方法】
 クロスオーバーデザインを用いて,グループホームに入所する認知症高齢者18名に対して週1回,60分間の介入を全5回実施した.介入期には複数のクリップから構成される8mm映像を対象者の反応に応じて対話を行いながら観賞した.映像は大部分が白黒で無音である.また映像の題材は,こどもの成長記録,旅行の記録,冠婚葬祭などが中心だが,非常にバラエティに富んでいる. また対照期には,山中の認知活性化療法の内容に準じたスライドを写真を中心に作成して介入した.尚,8mmFilmおよび スライドともにプロジェクターを使用して大型スクリーンに映像を投射した.また Washout期間は3か月とした.効果指標は,行動心理症状と介護負担感(NPI-NH),QOL(QOL-D),認知機能(MMSE)を用いた.8mm映像に対する反応の良し悪しに関しては,参加した研究者と介護者で,映像クリップ単位に検討して判定した.研究に使用した8mmFilmは,秋田県内の所有者から共同演者が許可を得て収集した約1000本の映像をデジタル化したものから,季節やテーマに合ったものを抽出して使用した.本研究に関しては両研究者が所属する各大学の倫理委員会の承認を得ている.
【結果】
 実験参加者18名は,男性4名で女性14名,平均年齢は84.6±7.6歳である.各得点(ベースライン,8mm, スライド)は,行動心理症状(18.9±14.3点,17.3±27.5点,13.2±13.8点),介護負担感(6.8±4.0点,7.7±9.5点,5.1±4.6点),QOL-D得点(28.8±6.5点, 25.4±7.5点, 21.7±7.0点), MMSE(15.5±7.5点,17.1±7.4点, 19.1±4.3点)であり,8mmFilm映像の方が,スライドに比べてやや成績が不良だった.
 効果的と判定された映像は,赤ちゃんや子どもの遊んでいる様子,地元の祭り,地元商店街で魚を捌いている様子等であり,大半の参加者が食い入るように映像を見つめて,発語や歓声などが多くあがった.人により反応が分かれた映像は,観光地,火山噴火,田舎の結婚式,農作業等であり,反応が悪かったのは,国道の開通,メーデーの行列,公共建築物などだった.またキャッチボールやスキー,地元の祭りなど動作がある映像に比べて,建物や植物,風景などは映像に対する集中が低い印象だった.
【考察】
 8mm期の成績が,スライド期に比べてやや劣っていたのは,映像クリップのなかには興味を惹くものと惹かないものが混在していたことが影響している可能性がある.また映像の特性を生かし,動きのあるものを被写体にした方が有利な可能性がある.今後は,今回の結果を参考に映像を再構成し,さらに検討を続ける予定である.