第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-12] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PK-12-4] 左半側空間無視を呈する患者に対し,上肢リハビリ装置CocoroeAR2を使用した一症例

深谷 夏々子 (医療法人横浜平成会 平成横浜病院リハビリテーション科)

[序論]半側空間無視(unilateral spatial neglect 以下USN)とは,右半球損傷に伴いやすく,損傷大脳半球と反対側の刺激を無視する症状であり,訓練法については視覚探索課題の反復訓練や,視覚走査訓練などが挙げられている.しかし,これらのアプローチの問題は机上検査で改善が見られても日常生活動作(以下ADL)への汎化が得られにくいことが多く,訓練課題を越えたADLへの汎化の問題や訓練が除去された後の長期効果について報告されたものはないとされている.今回左半側空間無視を呈した症例に対して上肢リハビリ装置であるCocoroeAR2を視覚探索課題として訓練に取り入れたので,結果を以下に報告する.本症例に際し,当院論理委員会の承認を得,症例に説明を行い書面にて同意を得た.
[症例紹介] 40歳代女性,右効き,病前ADLは全自立.人間ドックにて右内頸動脈瘤を指摘されコイル塞栓術を施行し翌日に頭痛,嘔吐,左USNなどの症状が出現し右頭頂葉皮質下出血と診断.発症21日後に自宅退院に向けリハビリ目的に当院回復期病棟へ転院となった.
[介入経過]初期評価ではBrunnstrom Stage:上肢・下肢・手指Ⅵと著明な運動麻痺はなく,表在・深部感覚ともに正常であった.高次脳機能検査ではMini Mental State Examination:26/30点.Trail Making Test(以下TMT)-A:130秒,TMT-B:135秒と平均値を下回り,選択性や分配性注意機能の低下を認めた.Catherine Bergego Scale(以下CBS):7/30点,Behavioural lnattention Test(以下BIT)通常検査:129/141点,行動検査75/81点とBIT通常検査がカットオフ点を下回り,半側空間無視を認めた.入院時Functional lndependence Measure(以下FIM)は115点(運動81点認知34点).病棟内ADLにおけるUSNの症状として,歩行中に左側から来る人や障害物に気付かない,ぶつかりそうになる等の症状が挙げられた.そのため歩行能力は独歩で自立レベルであったが,終日見守りを要していた.
[方法・経過]発症30日後に視覚探索訓練としてCocoroeAR2を実施した.左上肢を使用し,訓練種別を肩関節内旋・外旋に設定した.青黄色のスイッチ間の距離を訓練初期は20㎝から始め,25㎝,32㎝と段階的に延長し,左側への視野拡大を促していった.高さは青黄色ともに常に2㎝で行い.免荷,電気刺激,振動刺激なし,音声ありの設定で行った.頻度はOT毎介入時と,1回10~15分で疲労度に合わせながら実施した.他に机上課題を用いての視覚探索訓練や左側への手がかりを与えながらの病棟内での歩行訓練なども併用し,Attention Process Training(APT)を取り入れ,注意機能障害に対してのアプローチも行った.
[結果]発症64日後CBS:2/30点,BIT通常検査:139/141点,行動検査79/81点.TMT-A:102秒,TMT-B:86秒.FIM126点(運動91認知35点).病棟内での歩行は左側から来る人や障害物に対しても注意が向けられるようになり,終日自立での歩行が可能となった.
[考察]石合(1996)は,USNの訓練において①マルチモーダルな刺激によって感覚の要素に関わる脳部位を賦活し左側を見ることを意識させること,②運動の企画の要素に関わる脳部位を賦活させるために運動の出力とともに注意を左側へ向けることの2点が重要であると報告している.今回CocoroeAR2を訓練に使用し,左側に対しての能動的な上肢の自動運動の反復訓練と左側のスイッチへの視覚探索を同時に促すことで感覚と運動の企画の要素の双方にアプローチができ,頭頂葉と前頭葉が賦活し左側への注意が意識化され,USNの症状の軽減に至ったと考える.