第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-4] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 4

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PK-4-2] 前交通動脈瘤の術後に重度の記憶障害を呈した症例に対する臨床的評価および介入

光永 大助, 中山 みゆき, 祐森 伸彦 (川崎医科大学総合医療センターリハビリテーションセンター)

【はじめに】
前交通動脈瘤破裂後に記憶障害や人格変化といった症状を呈することが知られている.今回前交通動脈瘤の術後に重度の記憶障害や注意障害,発動性の低下などの症状を呈し,自宅復帰に難渋した症例を担当したので,その症状や作業療法の経過について報告する.
【症例紹介】
50歳代男性,右利き,高卒,一人暮らし,営業職.現病歴:X年4月後頭部痛や嘔吐あり当院に救急搬送,頭部CTにてくも膜下出血を認め同日コイル塞栓術施行.術後翌日CTにて左中心前回に脳梗塞を認める.
【経過】
発症時:意識JCS30~100,コミュニケーション困難,失行・失認は精査困難,運動機能はBRSにて右上肢Ⅱ,手指Ⅱ,下肢Ⅱ,感覚障害あり.全身状態に合わせて覚醒度の向上や四肢の運動機能の向上を目的に作業療法実施.全身状態が落ち着いたため,同年6月に回復期リハビリテーション病棟へ転科.転科時:覚醒度や運動機能の改善みられるが(BRSにて右上肢Ⅳ,手指Ⅳ,下肢Ⅴ),失語や見当識障害,記憶障害(前向性・逆向性),作話,注意障害を含む全般的な認知機能障害および意欲・発動性の低下を認め,ADLに介助が必要.MMSE:12/30点,RCPM:10/36点,RAVLT:1,2,3,3,4/15,再認1,遅延再生0,RBMT:標準プロフィール点0/24点,スクリーニング点0/12点,Digit Span:順唱5,逆唱2,かな拾いテスト(物語):0/2min,TMT:PartABともに実施困難,FIM:58/126,運動43/91,認知15/35.身体機能向上や注意機能向上を目的に四肢の運動や座位・立位動作練習,ADL練習を実施.転科後1ヵ月:身体機能向上に伴い,ADL自立度向上みられるが,記憶障害や注意障害,発動性の低下などにより常に声掛けや監視が必要.MMSE:12/30点,RCPM:20/36点,RAVLT:3,3,3,5,3/15,再認0,遅延再生0,RBMT:標準プロフィール点0/24点,スクリーニング点0/12点,Digit Span:順唱6,逆唱2,かな拾いテスト(物語):4/2min,TMT:PartA 6分7秒,PartB 途中で中止,KBDT:IQ39.1,FIM:69/126,運動52/91,認知17/35.病棟内生活の自立を目標に,領域特異的訓練(記憶や注意機能の改善),入浴や洗濯・買い物などを曜日毎に決めた一週間の予定表や日課表の作成(自発的行動),見当識の貼り紙やメモリーノートでの一日の出来事の確認・記入,スマートフォンにて日付の確認やアラーム・スケジュール・カメラ機能の使用(外的補助手段の活用)を行った.処理速度向上や自発的な行動がみられるなどわずかな改善あるも,見当識障害や記憶障害,作話,注意障害は残存.MMSE:22/30点,RCPM:20/36点,RAVLT:7,6,6,5,6/15,再認12,遅延再生2,RBMT:標準プロフィール点3/24点,スクリーニング点1/12点,Digit Span:順唱6,逆唱4,かな拾いテスト(物語):18/2min,TMT:PartA 2分20秒,PartB 7分18秒,KBDT:IQ58.3,FIM:106/126,運動84/91,認知22/35.外的補助手段の定着が困難であったが,病棟スタッフと共に反復して行うことで,スマートフォンにて日付を確認したり予定表を見ながら行動したり,外的補助手段を利用しながら病棟内での生活が自立となった.同年11月に家族と同居することで自宅退院となった.
【考察】
本症例の記憶障害は,重度の前向性健忘および逆行性健忘,時間と場所の失見当識,自発性作話を呈していたが,短期記憶や意味記憶,手続き記憶は比較的保たれていた.外的補助手段の定着が困難であったが,手続き記憶が保たれていたため病棟スタッフと相談し,反復して行うことで外的補助手段を利用することが可能となった.外的補助手段や環境調整などの手がかりを利用することで再生や再認の改善がみられた.