第57回日本作業療法学会

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ポスター

地域

[PN-4] ポスター:地域 4

Fri. Nov 10, 2023 3:00 PM - 4:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PN-4-8] 在宅認知症者の介護者が経験する作業機能障害と介護負担感の関連性に関する横断的研究

後呂 智成1, 三宅 優紀2, 寺岡 睦2, 京極 真2 (1.医療法人南労会みどりクリニックデイリハビリ, 2.吉備国際大学大学院保健科学研究科)

【背景と目的】認知症介護を行うことは高い介護負担感を生じ,介護者の生活と介護との両立を支援することは重要な課題となっている.介護者は認知症介護を行うことで,様々な生活の変化を強いられており,作業機能障害(以下,OD)に陥っている.介護負担感とODには,認知症介護を行うことで生じる生活の変化,日常・社会生活の拘束感など共通する部分があり,介護を肯定的に捉えるためには作業体験が関係していることから,関連性があると考えられる.認知症者の介護においては,介護負担感の大きな要因としてBPSDがあり,異常行動,拒否や攻撃性などのBPSDはODにつながっている可能性があり,ODと介護負担感の関連を検討するにあたってBPSDを考慮することは不可欠である.本研究では,在宅認知症者の介護者が経験するODと介護負担感,BPSDの関連性について明らかにすることを目的とした.本研究において開示すべきCOIはない.
【倫理的配慮】本研究は吉備国際大学倫理審査委員会の承認(受理番号:21−38),医療法人南労会紀和病院倫理審査委員会の承認(受付番号:42)を得て実施した.
【対象と方法】研究デザインは質問紙による横断的調査研究とした.対象は,在宅の認知症者を主として介護している成人で,介護の状況を俯瞰して振り返ることが出来る者とした.介護専門職や,認知症者が入院や入所している場合は除外とした.調査項目は基本属性をフェイスシート,介護負担感をZarit介護負担感尺度日本語版短縮版(以下,J-ZBI_8),ODを作業機能障害の種類と評価(以下,CAOD),認知症者のBPSDをThe Neuropsychiatric Inventory Questionnaire(以下,NPI-Q)とした.研究承諾の得られた研究協力施設・者に質問紙を郵送,対象者への配布と回収,研究者への返送を行ってもらった.分析として記述統計量の算出,性別やODの有無における差の検定,スピアマンの順位相関係数での各尺度の相関分析,介護負担感を従属変数とした重回帰分析を実施した.
【結果】アンケート配布164件に対して,回収96件(回収率58.5%)であった.OD群は介護者の46.9%で,男性(p=.023),関係性が不良(p=.013),フルタイムの仕事(p=.035)が有意に多く,J-ZBI_8(p=.000),NPI-Q重症度(p=.001),NPI-Q負担度(p=.000)の得点が有意に高かった.J-ZBI_8,CAOD,NPI-Qにはそれぞれ弱~中等度の正の相関が認められた.重回帰分析では,CAODとNPI-Qは介護負担感に影響を及ぼす有効な指標であり,標準化回帰係数はNPI-Q負担度(.479),CAOD(.473),NPI-Q重症度(.370)の順であった.
【考察】J-ZBI_8,NPI-Q得点がOD群において有意に高いこと,各尺度における相関分析や重回帰分析の結果から,介護者のODと介護負担感,認知症者のBPSDには関連性があり,介護者のODは認知症者のBPSDを考慮したうえで介護負担感に影響する可能性が示された.重回帰分析の結果から,BPSDによる負担が介護負担感へ最も強く影響し,次いでOD,BPSD重症度が影響を与えることが示唆された.症状の重症度,介護の量が介護負担感へ直結するわけではなく,BPSDが重度になることで生活が阻害されたり,介護に対する意味が感じられなくなった時に介護負担感へと繋がっている可能性が考えられる.OD群の特徴から,認知症介護がODに直結するわけではないが,認知症者との関係性,仕事による時間的要求の多さ,男性においては介護を義務的に捉えることにより,生活のバランスの崩れや介護を肯定的に捉えられない経験となり,ODに陥っている可能性が考えられる.介護負担感にODが関連していると示されたことで,介護者支援において,ODの視点からの評価,支援を行うことの意義が示されたと考える.