[PN-4-9] 作業の特性と主観的記憶障害との関連:わかやまスタディ
【序論】主観的記憶障害(SMI)は,記憶能力を自己評価し,以前より悪化したと自覚があり,客観的な認知機能または記憶能力の低下を認めない状態である.SMIは年齢とともに増加し,認知症に移行する可能性も否定できないため,認知症のプレクリニカルな状態とも考えられている.さらに,SMIは,日常生活における直接的な制限につながるともいわれている.作業は日常生活の中で育まれ,人の健康と安寧に寄与し,精神機能や認知機能にも影響を及ぼすため,作業の視点でSMIを捉えることは大きな意味を持つ.
本研究では,地域在住者の作業形態の特性とSMIとの関連性を横断的に明らかにすることとした.作業は健康に寄与することから,本研究ではSMIがないことに焦点をあてた.
【方法】和歌山県A町の住民のうち,和歌山ヘルスプロモーション研究に参加した認知症の診断を受けていないMMSEの得点が25点以上の259名を対象に,作業形態の特性に関する自記式アンケートおよび主観的記憶障害,基本属性について聴取した.作業とは,「したい,する必要がある,することを期待されている活動とし,自分の時間を割いて,自分らしさを感じ,人生に意味をもたらす活動のこと」と定義した.作業形態の特性に関するアンケートは,①重要な作業名,②最重要となる作業名,③作業遂行度(主観的経験として「とても上手くできると思う」10点から「全くできないと思う」1点),④作業満足度(主観的経験として「とても満足している」10点から「全く満足していない」1点),⑤作業の頻度(毎日,週,月,年単位),⑥作業の領域(セルフケア,生産活動,余暇),⑦作業の継続期間(1年未満,1~5年未満,5年以上)であった.SMIの評価は,米国疾病対策予防センターの調査にも採用されている単一質問「過去12カ月間に,より頻繁に起こる,または悪化する混乱や記憶障害を経験しましたか?」を用い,「はい」をSMIありとした.統計解析は,SMIの有無を従属変数とし,作業形態の特性を独立変数とした多変量ロジスティック回帰分析を用いた.解析モデルは,作業の特性を相互に調整したモデル1,モデル1に年齢を加えて調整したモデル2,モデル2にBody Mass Index,アルコール摂取の有無,喫煙の有無,基礎疾患を加えたモデル3を用意した.調査期間は2018年7月から8月とし,所属大学研究倫理委員会の承認後,参加者から研究への同意を書面にて得て実施した.
【結果】参加者259名の内訳は,男性100名,女性159名,平均年齢73.9±5.8歳であった.131名(51.0%)はSMIを認めなかった.作業とSMIがないことに関して,男性は作業遂行の高さ(オッズ比1.41 [95%信頼区間:0.95-2.08])および作業の頻度の多さ(オッズ比2.15 [95%信頼区間:0.90-5.15] )に関連する傾向があった.女性は作業満足度の高さ(オッズ比1.37 [95%信頼区間:1.04-1.81] )が,有意に関連していた.この結果は,年齢,教育歴,Body mass index,喫煙の有無,アルコール摂取の有無,疾患を調整しても変化はなかった.
【考察】作業の視点によるSMIの調査は,他に例をみない.女性の場合,SMIは,基本属性を考慮しても独立して作業満足度すなわち主観的要素と関連することが示された.一方で,男性では作業の頻度という量的な要素も重要な側面かもしれない.生活上の困り事を引き起こすSMIは,早期対応が必要と言われており,個人が重要とする作業にも目を向ける必要がある.本研究は横断的調査であり,因果関係まで言及することができないため,コホート調査が必要となる.
本研究では,地域在住者の作業形態の特性とSMIとの関連性を横断的に明らかにすることとした.作業は健康に寄与することから,本研究ではSMIがないことに焦点をあてた.
【方法】和歌山県A町の住民のうち,和歌山ヘルスプロモーション研究に参加した認知症の診断を受けていないMMSEの得点が25点以上の259名を対象に,作業形態の特性に関する自記式アンケートおよび主観的記憶障害,基本属性について聴取した.作業とは,「したい,する必要がある,することを期待されている活動とし,自分の時間を割いて,自分らしさを感じ,人生に意味をもたらす活動のこと」と定義した.作業形態の特性に関するアンケートは,①重要な作業名,②最重要となる作業名,③作業遂行度(主観的経験として「とても上手くできると思う」10点から「全くできないと思う」1点),④作業満足度(主観的経験として「とても満足している」10点から「全く満足していない」1点),⑤作業の頻度(毎日,週,月,年単位),⑥作業の領域(セルフケア,生産活動,余暇),⑦作業の継続期間(1年未満,1~5年未満,5年以上)であった.SMIの評価は,米国疾病対策予防センターの調査にも採用されている単一質問「過去12カ月間に,より頻繁に起こる,または悪化する混乱や記憶障害を経験しましたか?」を用い,「はい」をSMIありとした.統計解析は,SMIの有無を従属変数とし,作業形態の特性を独立変数とした多変量ロジスティック回帰分析を用いた.解析モデルは,作業の特性を相互に調整したモデル1,モデル1に年齢を加えて調整したモデル2,モデル2にBody Mass Index,アルコール摂取の有無,喫煙の有無,基礎疾患を加えたモデル3を用意した.調査期間は2018年7月から8月とし,所属大学研究倫理委員会の承認後,参加者から研究への同意を書面にて得て実施した.
【結果】参加者259名の内訳は,男性100名,女性159名,平均年齢73.9±5.8歳であった.131名(51.0%)はSMIを認めなかった.作業とSMIがないことに関して,男性は作業遂行の高さ(オッズ比1.41 [95%信頼区間:0.95-2.08])および作業の頻度の多さ(オッズ比2.15 [95%信頼区間:0.90-5.15] )に関連する傾向があった.女性は作業満足度の高さ(オッズ比1.37 [95%信頼区間:1.04-1.81] )が,有意に関連していた.この結果は,年齢,教育歴,Body mass index,喫煙の有無,アルコール摂取の有無,疾患を調整しても変化はなかった.
【考察】作業の視点によるSMIの調査は,他に例をみない.女性の場合,SMIは,基本属性を考慮しても独立して作業満足度すなわち主観的要素と関連することが示された.一方で,男性では作業の頻度という量的な要素も重要な側面かもしれない.生活上の困り事を引き起こすSMIは,早期対応が必要と言われており,個人が重要とする作業にも目を向ける必要がある.本研究は横断的調査であり,因果関係まで言及することができないため,コホート調査が必要となる.