第57回日本作業療法学会

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ポスター

地域

[PN-5] ポスター:地域 5

2023年11月10日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (展示棟)

[PN-5-3] 多職種連携のための「姿勢評価表」

清水 学1, 齊藤 純菜1, 嶋村 悦史1, 川﨑 はるか1, 石岡 俊之2 (1.シルバーケア敬愛リハビリテーション部, 2.埼玉県立大学保健医療福祉学部 作業療法学科)

【序論】
シーティングは,適切な座位姿勢を実現することで二次的障害の予防,活動と参加の促進を目的としている.そのため,シーティングを日常生活で実施することが必要であり,日常生活のケアを行う専門職との連携が必要である(草地潤子ら,2009).しかし,施設入所者に対してシーティングを実施しても,日常生活の不自然な座位姿勢による悪影響が懸念されている現状がある(佐々木八千代ら,2018).シーティングの成果を日常生活で実践するためには,生活のケアを行う職員がその成果を実践できる仕組みが重要である.
【目的】
作成した姿勢評価表による多職種連携の有効性を,嚥下障がいがある入所者の日常生活での姿勢改善により自宅退所ができた経験を基に検証した.
【症例】
女性(70歳代),脳梗塞発症+6年に本施設に入所し,入所時から重度の右片麻痺,嚥下障がい及び構音障がいがあった.座位機能はHoffer 2-3であった.認知機能低下は認めなかった(HDS-R28点).摂食時の姿勢は,頭頸部を前方突出,体幹右側屈したモジュラー型車椅子座位で,自力摂取では水分のむせ込みを認めた.嚥下外来で舌機能低下による食塊の咽頭への送り込み不良を認め,チルトリクライニング車椅子に変更し摂食は要介助とした.入所5ヶ月後には,座位機能が低下(Hoffer 3)し,摂食時の姿勢は頸部後屈位及び骨盤後傾していた.嚥下時の喉頭挙上範囲も低下し,むせ込みや姿勢保持による疲労によって摂食量が減少していた.尚,本人から本内容を発表することに同意を得ている.シーティング(入所5ヶ月後):作業・理学療法士が頸部後屈位の軽減目的で姿勢を補正した.座骨周辺の体圧数値は補正後73 mmHg(前94mmHg)であった.また,体圧数値とともにシーティング前後の姿勢変化の写真を明示化した姿勢評価表を作成した.多職種介入方法:言語聴覚士が姿勢評価表を用いて,姿勢補正の留意点及び日常生活場面での補正方法を教示した.その後,食事前に活動時の姿勢を評価表に沿って補正して食事動作の介助を行い,食事中の状況を記録に記載し他の職種とも共有した.介入経過:生活をケアする職員による食事前の姿勢補正が行われるようになり,その姿勢が保持されている際には,摂食時のむせ込みが減少し摂食量も改善した.体力の回復とともに自宅での介護が可能な嚥下機能を獲得し,入所6ヶ月後に自宅退所となった.
【考察】
経口摂食が困難な入所者に対して,リクライニング型車椅子座位のシーティングを行い,その結果を多職種で共有する評価表を用いて食事時の姿勢補正を実施した.結果むせ込みが減少し自宅退所できた.摂食機能低下により,栄養摂取が不良となり更なる機能低下へとつながる悪循環に対し,シーティングの結果を多職種で汎用することで断ち切ることができた.このことは,食事場面でのシーティングの重要性(佐々木八千代ら,2018)を再認識できた成果といえる.食事場面での姿勢補正が多職種で実施できたのは,姿勢評価表を用いた効果かもしれない.評価表導入前は,写真の提示はあったものの実施方法に個人差が大きく,汎化が十分にされていなかった.しかし,補正後の姿勢や補正の留意点を確認できる評価表を作成した結果,多職種での統一された一定水準の補正が可能となったと考える.今回は,単一症例であり摂食時の誤嚥数の減少などを数値化できておらず,今後複数例にて嚥下機能の評価を含めて検証する必要がある.また,退所後の生活や通所者にも有効に活用できるように,施設間や介護家族との共有ツールとしての活用についても検討する必要がある.