第57回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-7] ポスター:基礎研究 7

2023年11月11日(土) 10:10 〜 11:10 ポスター会場 (展示棟)

[PP-7-1] 脳卒中患者における日本語版Function in Sitting Testの作成

南 裕二1, 掬川 晃一1, 廣島 拓也1, 森田 智之2, 半田 隆志3 (1.花はたリハビリテーション病院, 2.神奈川リハビリテーション病院, 3.埼玉県産業技術総合センター)

【目的】脳卒中患者における座位バランスの低下は,ADLなどの活動への大きな制限となりやすい.Gorman SL(2010)らは,脳卒中患者の座位バランスを特異的に測定する評価法としてFunction in Sitting Test(FIST)を開発した.FISTは,前方へのリーチや床から物を拾うなどの14項目の課題で構成され,0~4点の介助量で採点する評価尺度である.得点が低いほど座位バランスが低いことを示す.本邦においても,座位バランスが低下した脳卒中患者に対してFISTを用いることで,治療方法や環境設定を考える上で有用な指標になると考えた.そこで,今回我々は,日本語版FISTを作成し,パイロットテストを実施してその内的整合性と表面的妥当性を検討することとした.
【方法】FISTの開発者から日本語版作成への許可を得た後,異文化適応プロセスのガイドライン(Beaton DE,2000)に準じて翻訳作業をすすめた.FISTを日本語に翻訳し,日本語版を作成した.作成した評価表を英語に精通した2名が英語に逆翻訳して統合し,開発者の了承を求め,暫定的な日本語版FISTを完成させた.パイロットテストでは,当院回復期リハビリテーション病棟に入院して3~7日以内の初発脳卒中患者40名を対象に日本語版FISTを実施した.両側の障害,体幹失調,評価の妨げとなる認知障害や失語,整形学的既往などがある者,移乗が見守り以上で可能な者は除外とした.なお,本研究は筆頭演者が所属する法人の倫理審査委員会の承認(承認番号 第127号)を得た後,対象者には研究の趣旨に対する十分な説明を行い,同意を得た上で実施した.分析方法については,得られた日本語版FISTの点数を記述的に要約し,天井および床効果の有無を確認した.総合点数の分布の正規性をシャピロ・ウィルク検定で確認した.また,内的整合性を確認するためにクロンバックのα係数を算出した.有意水準は5%とした.対象に行った設問内容に対する聴取と,パイロットテストの結果に基づく開発者の意見,脳卒中リハビリテーションに従事する作業療法士・理学療法士の意見をもとに表面的妥当性の確認を行った.
【結果】順翻訳および逆翻訳過程において,重大な言語的問題は生じなかった.パイロットテストにおいて,対象の平均年齢は72.6±13.7歳で,男性24名,女性16名であった.総合点数の平均は29.5±15.7点で,範囲は3~56点であった.56点となった対象者は1名であった.シャピロ・ウィルク検定により,総合点数は正規分布に従うことが確認された(p>0.05).クロンバックのα係数は0.97であった.日本語版FIST実施後の対象者への聴取では,文章表現も簡単で理解しやすいという回答が大部分であった.パイロットテストの結果に基づく開発者の意見,脳卒中リハビリテーションに従事する作業療法士・理学療法士の意見では修正を要するコメントはなかった.
【考察】Gorman SL(2010)らの先行研究と近い内的整合性が得られた.点数分布より,天井効果および床効果はみられなかった.また,評価を受けた対象者から修正を要するコメントはなく,大部分が理解しやすいという回答であり,脳卒中リハビリテーションに従事する作業療法士・理学療法士からも修正を要するコメントはなかったことから,日本語版FISTには良好な表面的妥当性があると判断した.
【結論】異文化適応プロセスのガイドラインに準じ,日本語版FISTを作成した.日本語版FISTは,内的整合性,表面的妥当性を兼ね備えた評価尺度であることが確認された.