第57回日本作業療法学会

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ポスター

管理運営

[PQ-2] ポスター:管理運営 2

2023年11月10日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (展示棟)

[PQ-2-4] 転倒リスク予測能力の潜在的因子の抽出

木下 亮平1, 大浦 智子2, 有久 勝彦3, 石附 智奈美4, 宮口 英樹4 (1.大阪人間科学大学, 2.奈良学園大学, 3.関西福祉科学大学, 4.広島大学大学院)

【序論】作業療法中に生じる有害事象うち,最も多く発生するのは転倒である.転倒は,入院期間の延長,医療費に増大を招き,死亡率を高める.転倒の発生は,患者の年齢,疾患,筋力や視力の低下,部屋の環境,履物,投薬などの様々な要因で起こる.作業療法士(OT)が,安全で適切な支援を実施するためには,転倒リスクの評価が必須である.転倒のハイリスク者を特定する評価ツールや介入手段が確立されている中で,リハビリテーション専門職の転倒リスク予測能力(予測能力) に着目した評価ツールとして,Time Pressure-Kiken Yochi Training (TP-KYT)がある.TP-KYTは,リハビリテーション実践時の転倒に関する頻度が多い5場面をイラストで示し,限られた時間でどの程度転倒リスクが予測される場面を予測できるかを数値化するものである.TP-KYTは患者の生活場面を優先した課題の設定であり,その配点構成は,24のリスク項目に対して経験年数5年以上(熟練者)の合議によって決定されている.したがって,24のリスク項目には,潜在的な因子が内包されている可能性がある.患者の転倒予防の包括的対策を講じるための基礎的な情報として活用できる.
【目的】予測能力を測定するTP-KYT の24のリスク項目から潜在的因子を明らかにすること.
【方法】TP-KYTの24のリスク項目を内容に基づいて帰納的に分析した.手順として,リスク項目にラベルを付し,コードにまとめ,因子に集約した.分析は,第1分析者(OT)と,第2分析者(OT)が個別で因子の集約を行った.そして,意見の不一致点について共同研究者と協議して,合意形成を図った.分析に関与した者は,OTの熟練者であった.これにより,分析工程の信頼性を確保した.倫理審査委員会の承認を受け実施した(E-2838).
【結果】24のリスク項目から,14種類のコードが抽出され3つの因子に集約された.因子を[],コードを<>,リスク項目数を「」で示す.[患者の能力]は,患者の心身機能に起因する転倒リスクを示し,<患者の足底位置が不適切>「3」,<患者の姿勢が不良>「2」,<患者のバランス能力が不良>「2」,<患者の上肢支持能力が不良>「2」,<患者の覚醒が低い>「1」の5つのコードで構成されていた.[物的環境]は,患者を取り巻く物理的な環境に起因する転倒リスクを示し,<福祉用具の不適切な設定>「3」,<福祉用具の位置が不適切>「3」,<福祉用具の不適切な選択>「1」,<福祉用具が設置されていない>「1」,<身に着けている物が不適切>「1」,<家具の位置が不適切>「1」の6つのコードで構成されていた.[人的環境]は,患者を取り巻く人的環境に起因する転倒リスクを示し,<セラピストの位置が遠い>「2」,<セラピストが患者を見ていない>「1」,<周囲に人がいない>「1」,の3つのコードで構成されていた.
【考察】予測能力は,3つの潜在的因子で構成されていることが示唆された.人-環境-作業モデル(PEOモデル)では,作業遂行を3つの要素で複合的に捉えている.集約された,3つの潜在的因子は,PEOモデルの人,環境で捉えることができる可能性がある.そして,TP-KYTは,患者の生活場面の転倒リスク状況を課題特性としていることから,PEOモデルの作業が反映されている可能性がある.今後は,OTの予測能力と,PEOモデルを活用した実践能力との関連性や潜在的3因子をとりいれた転倒予防の対策の構築が必要である.