第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

教育

[PR-11] ポスター:教育 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PR-11-6] 作業療法学生の臨床実習に向けたコミュニケーション演習の効果について

大野 宏明, 山形 隆造, 岡本 幸 (川崎医療福祉大学リハビリテーション学部作業療法学科)

【はじめに】
臨床実習において精神的に不調になる学生は少なくない.谷口靖弥ら(2010)は,レジリエンスに有用な因子として,「社会的スキルに対する自信」と「良好な自己認知」を挙げている.そこで,臨床実習(以下,実習)前の学生を対象に,生活技能訓練(以下,SST)と認知行動療法(以下,CBT)を取り入れたコミュニケーション演習(以下,演習)を実施し,学生の社会スキルとレジリエンスが向上し実習に有用かについて検討を行った.本研究は,本学倫理委員会の承認を得ている.
【対象と方法】
対象は,本学3年次の精神科基礎演習を履修し,研究に同意の得られた122名とした.演習は11月から1月の内の7日間,1回180分行った.演習テーマは,実習場面を想定した内容(会話,褒める,傾聴等)とし,SSTを用いた.また自己理解と思考の拡がりを目的としたCBT演習も実施した.評価は演習初日と最終日で前後の評価を実施し,実習がすべて終了する4年次の9月に実習後評価を行った.評価は,コミュニケーションスケール(以下,CS),成人用ソーシャルスキル尺度(以下,成人SS),自己効力感尺度(以下,SE),社会的スキル尺度(以下,KISS18),精神的回復力尺度(以下,レジリエンス),自尊感情尺度(以下,RSES),うつ性自己評価尺度(SDS),NRSによる自信の評価を実施した.統計解析は,1)演習と実習の介入前後比較はFriedman検定を行い,有意な場合に多重比較を行った.2)演習と実習前後のレジリエンスの変化量と自信を目的変数,その他の評価の下位項目と合計点を説明変数とした重回帰分析を実施した.
【結果】
1.前後比較.1)演習では,CS合計・対象者とのCS,SSの関係維持・記号化,KISS18合計・感情処理が演習後有意に高値であった(p<.05).2)実習では,CS合計・基本的態度・指導者とのCS,成人用SSの感情統制,KISS18の初歩的スキル,SE,レジリエンスの感情調整が,実習後有意に高値であった(p<.01).
2.重回帰分析.1)演習前後の変化量におけるレジリエンスの「新規性の追求」(R2=.12,p=.003)にはSSの関係維持が,「感情調整」(R2=.14,p=.001)にはKISS18のストレス処理とRSESが有意な正の影響を与えていた.「肯定的な未来志向」(R2=.26,p=.000)にはKISS18合計とRSESが有意な正の影響を,KISS18の計画スキルは負の影響を与えていた.2)演習後の「自信」(R2=.17,p=.000)はレジリエンスの肯定的な未来志向とCSの指導者とのCSが有意な正の影響を,KISS18の高度なスキルは負の影響を与えていた.3)実習前後の変化量におけるレジリエンスの「新規性の追求」(R2=.20,p=.000)にはSEが,「感情調整」(R2=.32,p=.000)にはSEとKISS18合計とストレス対処が有意な正の影響を与えていた.「肯定的な未来志向」(R2=.25,p=.000)にはSS合計とSEとKISS18の高度なスキルが有意な正の影響を,成人SSの関係開始とKISS18の攻撃に代わるスキルは負の影響を与えていた.実習後の「自信」(R2=.29,p=.000)は,レジリエンスの感情調整,CSの指導者とのCS,成人SSの関係開始が有意な正の影響を,KISS18のストレス対処は負の影響を与えていた.
【考察】
演習は,対象者や状況に対応した行動等の基本的な社会的スキルの向上がみられ,レジリエンスの肯定的な思考や前向きな行動に影響しており,実習に対する不安の軽減に少なからず役立っていた.実習の経験は,更なる社会的スキルの向上に加え自己効力感が養われており,レジリエンスには社会的スキルを活用する経験とそれに伴って培われる自信が,作業療法士の資質の向上に影響していた.