[PR-5-3] 作業療法士が有する職業倫理観に関する調査研究
【序論】職業倫理とは専門職倫理と同意義であり,特別な責務を与えられている専門職が専門職として行為するにあたっての心構えや行動規範である.作業療法士を取り巻く社会環境は1965年の国家資格化以来,医療福祉に関連した度重なる法制度や養成施設指定規則の改正など,大きく変化している.10万人を超えるわが国の作業療法士は臨床経験年数の違いによって卒前卒後の教育的環境や時代の社会的背景の変化の中で職業規範に対する価値観も大きく異なっていることが考えられる.これらのことから,作業療法士の臨床経験年数における職業倫理観の違いを明らかにしておくことは,作業療法士の卒前卒後における職業倫理教育の質向上をはかり,作業療法士ができるだけ早い段階での職業倫理観の醸成に寄与できると考える.
【目的】臨床経験年数の異なる作業療法士が有する職業倫理観の差異を質的に明らかする.
【対象と分析方法】対象は臨床業務を行っている作業療法士24名とし,臨床経験年数別に1~5年,6~10年,11~15年,16年以上の6名ずつ4グループ群に分けた.どの程度職業倫理や協会の示す倫理綱領を認識しているかの事前アンケートを行った上で,質的研究としての半構造化面接法によるフォーカスグループインタビュー(以下,FGI)をオンラインにて行った.対象者の選定にあたっては演者の恣意的な選出を避けるため,ある作業療法士の職能団体に対象者の推薦を依頼した.分析について,事前アンケートでは,各年代の違いを明確に示すため,Fisher-Freeman-Haltonの正確確率検定を用い,危険率5%未満を有意とした.FGIは録音した音声データをもとに逐語録を作成し,大谷が開発した質的研究法としてのSteps for Coding and Theorizationを用いた.
【倫理的配慮】本研究は演者らが所属している機関の倫理審査委員会から承認(承認番号20041)を受け,個々の対象者に対しては書面を用いて十分な説明を行い,同意を得た上で実施した.
【結果】事前アンケートでは年代間で職業倫理や倫理綱領に関する認識度の有意差を認めなかった.また,日本作業療法士協会の倫理綱領を知らない作業療法士が多かった.FGIで得られたデータは,1~5年は39分33秒(4,970字)で68セグメントのなかから関連する33セグメントを抽出,6~10年は56分55秒(12,234字)で73セグメントのなかから関連する42セグメントを抽出,11~15年は48分55秒(9,347字)で61セグメントのなかから関連する39セグメントを抽出,16年以上は66分35秒(16,234字)で84セグメントのなかから関連する39セグメントを抽出した.10年以下の作業療法士は16年以上と比較して職業倫理への関心そのものが薄いということがわかり,作業療法士の職業規範は臨床実習指導者,先輩,上司の言動や行動に影響されるところが大きく,ロールモデルから自然に学ぶ傾向がみられた.一方で,全ての年代で患者からの謝礼が挙げられ,その対応に苦慮した経験を有していた.
【考察】患者からの謝礼については,倫理綱領などで示されていることを遵守すれば受け取らないという一貫した態度を示せばよい.しかし,地域性や患者個人の気持ちを考慮する必要があると考えるのであれば,作業療法士と患者との信頼関係について一定の結論を出すことができるよう,他職種を含む上司や同僚等との相談及び情報の共有を十分に行える環境が必要と思われる.作業療法士の職業倫理観の醸成を早期に促すためには,倫理綱領や職業倫理指針に関する講義時間を増やし,職業倫理に関する事例検討を実践することも重要であると考える.また,職業倫理観の醸成を補完するためのプロフェッショナルリズム教育を提言したい.
【目的】臨床経験年数の異なる作業療法士が有する職業倫理観の差異を質的に明らかする.
【対象と分析方法】対象は臨床業務を行っている作業療法士24名とし,臨床経験年数別に1~5年,6~10年,11~15年,16年以上の6名ずつ4グループ群に分けた.どの程度職業倫理や協会の示す倫理綱領を認識しているかの事前アンケートを行った上で,質的研究としての半構造化面接法によるフォーカスグループインタビュー(以下,FGI)をオンラインにて行った.対象者の選定にあたっては演者の恣意的な選出を避けるため,ある作業療法士の職能団体に対象者の推薦を依頼した.分析について,事前アンケートでは,各年代の違いを明確に示すため,Fisher-Freeman-Haltonの正確確率検定を用い,危険率5%未満を有意とした.FGIは録音した音声データをもとに逐語録を作成し,大谷が開発した質的研究法としてのSteps for Coding and Theorizationを用いた.
【倫理的配慮】本研究は演者らが所属している機関の倫理審査委員会から承認(承認番号20041)を受け,個々の対象者に対しては書面を用いて十分な説明を行い,同意を得た上で実施した.
【結果】事前アンケートでは年代間で職業倫理や倫理綱領に関する認識度の有意差を認めなかった.また,日本作業療法士協会の倫理綱領を知らない作業療法士が多かった.FGIで得られたデータは,1~5年は39分33秒(4,970字)で68セグメントのなかから関連する33セグメントを抽出,6~10年は56分55秒(12,234字)で73セグメントのなかから関連する42セグメントを抽出,11~15年は48分55秒(9,347字)で61セグメントのなかから関連する39セグメントを抽出,16年以上は66分35秒(16,234字)で84セグメントのなかから関連する39セグメントを抽出した.10年以下の作業療法士は16年以上と比較して職業倫理への関心そのものが薄いということがわかり,作業療法士の職業規範は臨床実習指導者,先輩,上司の言動や行動に影響されるところが大きく,ロールモデルから自然に学ぶ傾向がみられた.一方で,全ての年代で患者からの謝礼が挙げられ,その対応に苦慮した経験を有していた.
【考察】患者からの謝礼については,倫理綱領などで示されていることを遵守すれば受け取らないという一貫した態度を示せばよい.しかし,地域性や患者個人の気持ちを考慮する必要があると考えるのであれば,作業療法士と患者との信頼関係について一定の結論を出すことができるよう,他職種を含む上司や同僚等との相談及び情報の共有を十分に行える環境が必要と思われる.作業療法士の職業倫理観の醸成を早期に促すためには,倫理綱領や職業倫理指針に関する講義時間を増やし,職業倫理に関する事例検討を実践することも重要であると考える.また,職業倫理観の醸成を補完するためのプロフェッショナルリズム教育を提言したい.