第57回日本作業療法学会

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教育

[PR-6] ポスター:教育 6

2023年11月10日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (展示棟)

[PR-6-1] ミャンマー連邦共和国における作業療法士養成に関わる歴史と現状

大塚 進1, モー ピョータン2, 菅原 洋子3 (1.NPO法人 Rehab-Care for ASIA, 2.医療法人大那 だいなリハビリクリニック, 3.福岡国際医療福祉大学)

【はじめに】日本には現在,10万人を超える作業療法士が居る.しかし世界的に見ればWFOTの加盟国はおよそ100か国・地域で全世界の半分に過ぎない.アジアでもASEAN10か国中では半数の5か国にしか作業療法士は存在(実質的に)しておらず,これらアジアの未普及の国・地域への支援も重要な課題である.
【目的】日本とほぼ同時期に近代的なリハビリテーションの黎明期を迎えながら作業療法士の養成に至っていないミャンマー連邦共和国(以下ミャンマー)における作業療法関連の歴史を総括し,国際的な普及・養成への今後の支援の在り方・方策等への示唆を得る.
【方法】諸文献・資料等およびミャンマー人リハ関係者からの聞き取り情報等を集約・整理・考察した.
【結果】
ミャンマーでは,1959年には国立リハビリテーション病院が開院.1960年にはヤンゴン総合病院内で理学療法技術者の養成(2年制)が始まり1964年には3年制の学校となって本格的に理学療法士の養成が始まった.背景にはWHOによる支援があり,時期はほぼ日本と同じであった.作業療法も導入され,短期の講習が行われたが作業療法士養成には至らなかった.しかし,国立リハ病院内には作業療法室が開設され看護師を国外の作業療法研修へ派遣する等,導入・養成開始への機運はあり1973年頃には理学療法士が英国の作業療法学科に2年間留学.作業療法士養成が始まる予定だったが実現していない.この時期ミャンマーは独裁政権による統制経済や鎖国的政策により様々な面で停滞しており経済的な制約が大きかったと思われる.ただし,1982年からは東南アジアでは最も早くCBRの事業が始まる等リハビリテーションへの理解は進んでいた.
1990年代以降,独裁政権は継続するも内外情勢の変化も影響し一定の進歩が見られた.リハ分野では理学療法士の4年制大学化,2004年の修士課程の設置等,教育水準の向上等が見られた.2011年の民政移管後はさらに社会・経済の開放・発展が進み,リハ分野では2008年,JICAによるリハ強化プロジェクトが開始され2013年まで実施された.このプロジェクトには作業療法士の長・短期専門家が複数派遣され,プロジェクト終了後は作業療法士の長・短期ボランティアが3名派遣された.作業療法士の役割・必要性等の理解が進み作業療法士養成が視野に入るも,大学レベルの教員確保等が課題であり,日本・ミャンマー両国で努力が続けられた.
2014・15年には日本の大学院作業療法分野修士課程へ理学療法士2名が留学し2年後修了・帰国した.また,タイ国へ理学療法士を作業療法や言語療法の研修に派遣.さらに,2017・2018年理学療法士2名が日本の大学(作業療法学科)に入学.1名は2021年3月に日本の作業療法士国家試験に合格し資格を取得している.日本の他,英国の大学との協力もあり作業療法士の養成課程を開設する具体的計画・準備が2020年時点で進行,人材確保にも見通しが立って2022年頃にはミャンマー初の大学での作業療法学科が設立予定であった.しかしながら,コロナ禍や軍のクーデターによる社会の混乱により実現に至っていない.作業療法分野では精神障害領域も重要である.ミャンマーの精神医療は総合的な精神病院が2か所,精神科専門医師も約200名と脆弱であるが,医師・関係者では作業療法の有効性・必要性は理解されており専門職への期待は高い.
【考察】
ミャンマーでは日本とほぼ同時期に理学療法士の養成が始まったが作業療法士の養成は未だ行われていない.この原因としては医療・リハ関係者の理解・意欲などより人材確保に関わる国家・社会の財政や政策の制約が大きいと推察された.支援に当たっては教育人材養成の視点が重要と思われる.