第57回日本作業療法学会

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スペシャルセッション

[SS] スペシャルセッション

Fri. Nov 10, 2023 11:10 AM - 12:10 PM 第1会場 (劇場棟)

[SS-2-1] 高齢者における軽度認知障害の経時的変化に身体活動量と環境要因が及ぼす影響

籔脇 健司1, 田中 康平2, 坂井 仁哉3, 中村 裕美4 (1.東北福祉大学健康科学部, 2.訪問看護ステーション悠, 3.そうしんクリニック茶屋町, 4.埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科)

【序論】わが国における認知症対策は喫緊の課題である.基本的に認知症は不可逆的な病態を示すため,軽度認知障害(以下,MCI)段階での適切な支援が必要とされる.認知症予防に有効な非薬物療法には,適度な身体活動(運動)や認知訓練と運動の併用がある(日本神経学会,2017).作業療法の焦点となる生活行為の実施では,「車を運転する」「本や新聞を読む」「地域の集まりに参加する」などに取り組んでいると正常状態に回復しやすいことが報告されている(Shimada, et al., 2019).このような運動や生活行為を十分に実施するためには,生活環境の充実が必要不可欠であるが,MCIにおける認知機能の変化に環境要因がどのように影響するかは明らかにされていない.
【目的】高齢者における軽度認知障害の経時的変化に個人差があるかを捉え,その変化に身体活動量と環境要因がどのように影響しているかを潜在曲線モデルによって明らかにする.
【方法】本研究では,前向きの縦断研究デザインを採用した.また,対象者に十分な倫理的配慮を行い,倫理審査委員会の承認を得て実施した.対象は,介護保険の居宅サービスや介護予防・日常生活支援総合事業の利用者で,要介護1以上の認定を受けた者を除く高齢者73名であった.調査内容として,基本的・医学的情報を収集後,タッチパネルPCを用いたTDASプログラム(日本光電製)を実施し,認知機能を測定した.さらに,Lifecoder GS(スズケン製)による7日間の身体活動量計測と包括的環境要因調査票簡易版(以下,CEQ-SF)を実施した.
 追跡調査では,TDASプログラムの結果よりMCI相当とされる予防域の対象者を抽出して24か月間フォローアップし,6か月ごとに初回と同内容の調査を実施した.データ分析では,認知機能の経時的変化を捉えるために潜在曲線モデルを用いた.次に,認知機能の変化を説明できる要因があるかを検討するために,基本的・医学的情報,身体活動量,CEQ-SFの各変数を投入したモデルをそれぞれ作成し,説明変数がないモデルとの情報量規準を比較した.分析にあたっては,小規模データでも実態に即した結果が得られるベイズ推定を用い,統計プログラムにはMplus ver. 8.7を使用した.
【結果】初回調査より21名が予防域と判定され,そのうち19名(平均83.8±4.3歳)がフォローアップ可能であった.認知機能の潜在曲線モデル分析では,情報量規準でDIC=465.683,BIC=482.903,分散は切片3.582±3.846,傾き1.557±1.632とどちらも有意(p<.05)であり,共分散は-1.019±1.757と非有意であった.説明変数を加えた分析にて,認知機能の変化に有意な影響を示し,有効なモデルと判断された要因は,要介護度(説明率:切片58.5%,傾き21.8%),同居者の有無(説明率:切片35.1%,傾き5.7%),中強度活動時間(説明率:切片7.9%,傾き38.4%),外出しやすい環境などの相互交流環境(説明率:切片14.2%,傾き39.6%)であった.
【考察】MCI(予防域)と判定された対象者の認知機能は,潜在曲線モデルでの切片と傾きが有意であったことから,調査開始時から個人差が大きく,24か月間の変化量にも個人差があったと解釈できる.また,これらの変化を説明できる要因は,要介護度,同居者の有無,中強度活動時間,相互交流環境であることが示された.特に中強度活動時間と相互交流環境は傾きの説明率が大きく,認知機能の経時的変化に大きく影響することが明らかとなった.Huangら(2022)は,MCIの改善には強度の高い抵抗運動が有用であることを報告しているが,さらに本知見は作業療法で提供されるような環境支援がMCIの改善に寄与する可能性を示すものと考えられる.