[OA-13-1] 健常成人における爪切り動作の時系列クラスタリングによるパターン分類
【序論・目的】物品操作には高い手指の巧緻性が要求される.そのため,手指の機能が損なわれた場合には作業の困難さから代償手段に頼ることが多い.爪切り動作もその中の一つであり,自助具に頼らず作業遂行することの困難さをよく臨床経験する.これら細かな作業を行う際にはつかむ・つまむ動作が必要とされ,様々な物品操作において使用する手指やそのパターンが報告されているが爪切り動作に言及している報告は見当たらない.さらに,つかむ・つまむ動作における各手指の関係において母指と示指の関与が多く報告されているが(Liら,2002),小指の関与についての報告は少ない.そこで本研究の目的は,爪切り動作時における動作パターンを分析し,母指と小指の関与を明らかにすることである.
【対象・方法】対象者は右利き健常者20名(男性:10名,女性:10名,27.1±4.5歳)である.橈側および尺側から動画撮影を行う目的で肩軽度屈曲位,内外旋中間位,肘関節屈曲90度位,前腕回外位,手関節中間位にて普段のように爪切り動作を行った.爪切りが開いた状態から閉じ,そして開く一連の動きを爪切り動作として定義した.動作解析には,マーカーレスモーションキャプチャー(フォーアシスト製Pose-Cap)し,橈側では橈骨茎状突起,大菱形骨,母指MP関節にマーカーを貼付し,母指CM関節の矢状面上の動きに着目した.同様に尺側では豆状骨,小指MP関節,小指PIP関節にマーカーを貼付し小指MP関節の矢状面の動きに着目した.サンプリング周波数は30Hzとした.interp1関数を使用して全対象者の爪切り動作を50ポイントになるよう補正した.その上で爪切り動作50ポイントの時系列データに対してk-means法による時系列クラスタリングを実施し,4つのクラスタに分類した.さらに分類された4つのクラスタの平均時系列データに対して相互相関分析を実施して波形の類似度を評価した.これらの解析にはMatlab2023bを使用した.また,本研究の実施には日本作業療法士協会の倫理手続を遵守し,所属長の許可を得た後,対象者に書面と口頭にて説明をしている.
【結果】爪切り動作における母指CM関節運動では,クラスタ1,2,4(18名)は母指CM関節の開始角度に差はあるものの,対立位から徐々に復位の方向に動き開始肢位に戻る形となった.クラスタ3では,母指CM関節が復位から開始し徐々に角度が増大し,開始肢位に戻る形となった.相互相関分析の結果では,強弱はあるもののクラスタ間の相関(0.4486-0.9141)が認められた.一方,小指MP関節運動では爪切りの持ち方からクラスタ1,3,4(16名)は小指を用いており,小指MP関節の開始角度に差はあるものの動作に合わせて屈伸を繰り返していた.クラスタ2では爪切りに小指が接しておらず,小指MP関節屈曲が比較的伸展位をとり,その後一定の動きではなく屈伸を繰り返す形となった.相互相関分析の結果では,クラスタ2以外の組合せにおいて相互相関係数の値が高い結果となった.
【考察】爪切りの持ち方が多彩であり,また持ち方によって母指の動く方向に違いがあることがわかった.しかしどの持ち方であっても母指の動きは示指や中指方向の動きであり,環指や小指方向への動きがないことが明らかとなった.これは,爪切り本体の形状が刃先は狭く,柄の方は広いためより力を発揮するためと考えられる.一方小指では,3つのクラスタで小指を使用し,細かな屈伸運動を行っていることが分かった.物品の把持には,運動や固定といった小指の役割があるため(Banuvathyら,2021),爪切り動作の獲得には母指や示指だけでなく小指の機能にも着目する必要性があることが示唆された.
【対象・方法】対象者は右利き健常者20名(男性:10名,女性:10名,27.1±4.5歳)である.橈側および尺側から動画撮影を行う目的で肩軽度屈曲位,内外旋中間位,肘関節屈曲90度位,前腕回外位,手関節中間位にて普段のように爪切り動作を行った.爪切りが開いた状態から閉じ,そして開く一連の動きを爪切り動作として定義した.動作解析には,マーカーレスモーションキャプチャー(フォーアシスト製Pose-Cap)し,橈側では橈骨茎状突起,大菱形骨,母指MP関節にマーカーを貼付し,母指CM関節の矢状面上の動きに着目した.同様に尺側では豆状骨,小指MP関節,小指PIP関節にマーカーを貼付し小指MP関節の矢状面の動きに着目した.サンプリング周波数は30Hzとした.interp1関数を使用して全対象者の爪切り動作を50ポイントになるよう補正した.その上で爪切り動作50ポイントの時系列データに対してk-means法による時系列クラスタリングを実施し,4つのクラスタに分類した.さらに分類された4つのクラスタの平均時系列データに対して相互相関分析を実施して波形の類似度を評価した.これらの解析にはMatlab2023bを使用した.また,本研究の実施には日本作業療法士協会の倫理手続を遵守し,所属長の許可を得た後,対象者に書面と口頭にて説明をしている.
【結果】爪切り動作における母指CM関節運動では,クラスタ1,2,4(18名)は母指CM関節の開始角度に差はあるものの,対立位から徐々に復位の方向に動き開始肢位に戻る形となった.クラスタ3では,母指CM関節が復位から開始し徐々に角度が増大し,開始肢位に戻る形となった.相互相関分析の結果では,強弱はあるもののクラスタ間の相関(0.4486-0.9141)が認められた.一方,小指MP関節運動では爪切りの持ち方からクラスタ1,3,4(16名)は小指を用いており,小指MP関節の開始角度に差はあるものの動作に合わせて屈伸を繰り返していた.クラスタ2では爪切りに小指が接しておらず,小指MP関節屈曲が比較的伸展位をとり,その後一定の動きではなく屈伸を繰り返す形となった.相互相関分析の結果では,クラスタ2以外の組合せにおいて相互相関係数の値が高い結果となった.
【考察】爪切りの持ち方が多彩であり,また持ち方によって母指の動く方向に違いがあることがわかった.しかしどの持ち方であっても母指の動きは示指や中指方向の動きであり,環指や小指方向への動きがないことが明らかとなった.これは,爪切り本体の形状が刃先は狭く,柄の方は広いためより力を発揮するためと考えられる.一方小指では,3つのクラスタで小指を使用し,細かな屈伸運動を行っていることが分かった.物品の把持には,運動や固定といった小指の役割があるため(Banuvathyら,2021),爪切り動作の獲得には母指や示指だけでなく小指の機能にも着目する必要性があることが示唆された.