第58回日本作業療法学会

Presentation information

一般演題

脳血管疾患等

[OA-2] 一般演題:脳血管疾患等 2

Sat. Nov 9, 2024 12:10 PM - 1:10 PM D会場 (小ホール)

座長:前田 正憲(鹿教湯三才山リハビリテーションセンター)

[OA-2-3] 修正拘束運動療法(mCI療法)が意欲と活動範囲に及ぼす効果

高橋 芳昌, 後藤 進一郎, 清水 雅裕, 渡邉 郁人 (医療法人豊田会刈谷豊田総合病院 リハビリテーション科)

【序論】
CI療法は,日常生活で麻痺手の使用を拡大する代表的な介入方法として高い科学的根拠が示されている.脳卒中患者のQOLを向上する効果の報告はあるが,生活意欲と活動範囲について検証した報告は少ない.Brownらは,高齢者の53%が入院後に活動量が低下し,自然経過だけでは回復しない可能性を示唆している.
【目的】
今回,片麻痺で趣味の釣りができなくなり,意欲が低下した脳血管障害症例を担当した.自宅退院後,外来リハビリにてmCI療法を実施し,釣りという対象にとって意味のある作業に関する活動の遂行により生活意欲と活動範囲が向上しため報告する.
【方法】
対象は70代男性でアテローム血栓性脳梗塞を発症し,右片麻痺を呈した.発症2週間後に急性期治療が終了し,自宅退院後,外来リハビリテーション(以下,リハ)を継続した.右利き手の使用困難さを認めたため,発症94日後(FIM合計123点・高次脳機能障害なし)にmCI療法を実施した.mCI療法は,個別療法1.5時間+自主練習1.5時間を連続した平日10日間に実施した.個別療法の内容は,課題指向型練習と麻痺手使用を促す行動的戦略Transfer Package(TP)を実施した.課題指向型練習では,本人の目標(釣りの餌作り等やりたい)に応じて課題内容を変更し,成功体験が得られやすいように難易度を調整した.評価はmCI療法実施前/実施2週間後/実施1カ月後に,簡易上肢機能検査(STEF),Fugl-Meyer Assessment(FMA),Motor Activity Log-Amount of Use(MAL-AOU),-How well(MAL-HW),Life space assessment(LSA)を使用した.また,mCI療法前後の日常生活における意欲と活動の変化について,ご家族に聞き取り調査をした.倫理的配慮は当院倫理委員会の承認を得て実施した.対象者には同意書を用いて説明し実施した. 
【結果】
mCI療法実施前/実施2週間後/実施1カ月後の評価は,STEF右44/80/80点,FMA右60/65/65点,MAL-AOU(平均値)右1.8/3.7/4.6点,MAL-HW(平均値)右1.6/3.8/4.2点であった.LSAは,70/70/100点であり,生活空間は居室内から町内外への活動頻度が増加し,活動範囲は向上した.本人からは「時間はかかったけど魚が捌けるようになった」と嬉しそうに話された.ご家族からは「スーパーで魚を見つけようと歩く距離が増えた」「自ら自転車で外出するようになった」「釣りの仕掛けを他人の分まで作るようになった」「新しいことに興味を持って行動するようになった」との返答があり,生活意欲の向上がみられた.
【考察】
原田らは65~74歳のLSAスコア調査にて平均61.1±27.0と示している.Bakerらは,LSAのMCIDは10点以上と報告している.mCI療法実施1カ月のLSAの変化量は30点でMCIDより上回り,年代別の平均より活動範囲は向上した.意欲が向上した背景は,mCI療法を通して段階づけた成功体験が,釣りに関連した活動への能動的な参加のきっかけとなり,捌いた魚を家族に振る舞うなど,家庭内外の役割を担う機会ができたためと考えた.mCI療法の実施において,個別目標に合わせた課題調整とTPによる生活への汎下の成功体験が,生活意欲と活動範囲の拡大を促すことが示唆された.