[OA-5-2] 急性期脳卒中片麻痺に対するスパイダースプリントの効果について
【はじめに】
脳卒中上肢麻痺に対する課題指向型訓練において,運動麻痺が軽度であるにもかかわらず,感覚障害のために,力の調整が難しく動作を円滑に行うことができない場合がある.特に,巧緻性訓練において物品のつまみ動作で屈筋群に力が入りすぎ,物が滑り落ちる,つまみ損ねる症例を経験することがある.手指伸展補助を目的とするスパイダースプリント(以下SS)は,橈骨神経麻痺者に使用される装具であり,重度~中等度麻痺を呈した脳卒中患者へも回復期で使用された報告がある.しかし,脳卒中急性期や,感覚性失調を主たる治療目標とした報告は,渉猟する限りなかった.そこで今回我々は,麻痺が軽度で感覚性失調による巧緻運動障害を呈した急性期脳梗塞の症例にSSを装着して課題指向型訓練を行ったため報告する.なお,介入および発表にあたり本人に書面にて同意を得ている.
【症例紹介】
80代男性.右利き.Ⅹ日に倒れているところを発見され救急搬送された.左中大脳動脈閉塞の診断で,発症当日に血栓回収術を施行され,TICI 2bの再開通が得られた.術後,左被殻,中心後回に梗塞巣が残存し,左シルビウス裂に軽微なくも膜下出血を認めた.X+3日に肺塞栓症を発症,X+8日に全身状態が安定し作業療法を開始,X+41日に回復期病院へ転院した.
【初期評価】
意識JCSⅠ-3.身体機能は,右片麻痺BRS Ⅴ-Ⅴ-Ⅴ.感覚は表在,深部感覚ともに中等度鈍麻であり,Mobergピックアップ検査では開眼,閉眼ともに実施困難であった.上肢機能はAction Research Arm Test (以下ARAT) 29/57点.つまみ動作では,母指内転へ,2~5指MP・IP関節は屈曲へ過剰に力が入るため,母指と示指の対立位を維持することが困難で,物品を滑り落とす様子が頻回に観察された.高次脳機能は,運動性失語,観念運動失行を認めたが,意思疎通は容易で協力は得られた.病棟内ADLは,FIM 75/126点(運動項目:56/91,認知項目19/35点).日常生活での右手の参加は難しく,左手を主に使用していた.
【方法】
研究デザインはABAB法を用いた.ベースライン期(A期),SSを装着した介入期(B期)に分け,それぞれ平日5日間の介入を1セットとし合計4週間実施した.A期は右上肢近位の筋再教育訓練や感覚入力訓練を20分,課題指向型訓練を20分行った.B期はA期と同様のプログラムを行い,課題指向型訓練時にSSを装着した.各週の最終日にARARTを実施し経過を比較した.
【結果】
初期/1週/2週/3週/4週で,BRS上肢,手指ともにⅤ/Ⅴ/Ⅴ/Ⅴ/Ⅴ,ARAT 29/30/35/39/48.つまみ動作は,母指と示指~小指の指腹での対立が可能になった.感覚障害は,初期からB2期まで表在,深部感覚ともに軽度~中等度鈍麻で,自覚的に大きな変化がみられなかった.B2期では,SS装着時に手が動かしやすくなったという前向きな発言がみられた.対象期間後に実施したMobergピックアップ検査では,開眼34秒,閉眼は実施困難であった.病棟内ADLは一部自立となり, 食事では右手で箸とスプーンを併用して摂取することが可能となった.
【考察】
不均衡なABABデザインではあるが,ARATで,B期において前週のA期よりも大きな改善が得られた.より難易度の高い手指伸展運動を補助した点に加え,視覚的なフィードバックを促しながら課題指向型訓練を行ったことで,手指MP・IP関節屈曲,母指内転が抑制され,最適な手の力を調整することが可能になった印象を受けた.急性期の自然経過としての回復や観念運動失行の併存からSSの明らかな優位性を論じるのは困難だが,脳卒中の感覚障害を伴った片麻痺患者に対して早期からSSを導入する手法が効果的である可能性が考えられた.今後症例数を増やし,治療効果について検証を行っていきたい.
脳卒中上肢麻痺に対する課題指向型訓練において,運動麻痺が軽度であるにもかかわらず,感覚障害のために,力の調整が難しく動作を円滑に行うことができない場合がある.特に,巧緻性訓練において物品のつまみ動作で屈筋群に力が入りすぎ,物が滑り落ちる,つまみ損ねる症例を経験することがある.手指伸展補助を目的とするスパイダースプリント(以下SS)は,橈骨神経麻痺者に使用される装具であり,重度~中等度麻痺を呈した脳卒中患者へも回復期で使用された報告がある.しかし,脳卒中急性期や,感覚性失調を主たる治療目標とした報告は,渉猟する限りなかった.そこで今回我々は,麻痺が軽度で感覚性失調による巧緻運動障害を呈した急性期脳梗塞の症例にSSを装着して課題指向型訓練を行ったため報告する.なお,介入および発表にあたり本人に書面にて同意を得ている.
【症例紹介】
80代男性.右利き.Ⅹ日に倒れているところを発見され救急搬送された.左中大脳動脈閉塞の診断で,発症当日に血栓回収術を施行され,TICI 2bの再開通が得られた.術後,左被殻,中心後回に梗塞巣が残存し,左シルビウス裂に軽微なくも膜下出血を認めた.X+3日に肺塞栓症を発症,X+8日に全身状態が安定し作業療法を開始,X+41日に回復期病院へ転院した.
【初期評価】
意識JCSⅠ-3.身体機能は,右片麻痺BRS Ⅴ-Ⅴ-Ⅴ.感覚は表在,深部感覚ともに中等度鈍麻であり,Mobergピックアップ検査では開眼,閉眼ともに実施困難であった.上肢機能はAction Research Arm Test (以下ARAT) 29/57点.つまみ動作では,母指内転へ,2~5指MP・IP関節は屈曲へ過剰に力が入るため,母指と示指の対立位を維持することが困難で,物品を滑り落とす様子が頻回に観察された.高次脳機能は,運動性失語,観念運動失行を認めたが,意思疎通は容易で協力は得られた.病棟内ADLは,FIM 75/126点(運動項目:56/91,認知項目19/35点).日常生活での右手の参加は難しく,左手を主に使用していた.
【方法】
研究デザインはABAB法を用いた.ベースライン期(A期),SSを装着した介入期(B期)に分け,それぞれ平日5日間の介入を1セットとし合計4週間実施した.A期は右上肢近位の筋再教育訓練や感覚入力訓練を20分,課題指向型訓練を20分行った.B期はA期と同様のプログラムを行い,課題指向型訓練時にSSを装着した.各週の最終日にARARTを実施し経過を比較した.
【結果】
初期/1週/2週/3週/4週で,BRS上肢,手指ともにⅤ/Ⅴ/Ⅴ/Ⅴ/Ⅴ,ARAT 29/30/35/39/48.つまみ動作は,母指と示指~小指の指腹での対立が可能になった.感覚障害は,初期からB2期まで表在,深部感覚ともに軽度~中等度鈍麻で,自覚的に大きな変化がみられなかった.B2期では,SS装着時に手が動かしやすくなったという前向きな発言がみられた.対象期間後に実施したMobergピックアップ検査では,開眼34秒,閉眼は実施困難であった.病棟内ADLは一部自立となり, 食事では右手で箸とスプーンを併用して摂取することが可能となった.
【考察】
不均衡なABABデザインではあるが,ARATで,B期において前週のA期よりも大きな改善が得られた.より難易度の高い手指伸展運動を補助した点に加え,視覚的なフィードバックを促しながら課題指向型訓練を行ったことで,手指MP・IP関節屈曲,母指内転が抑制され,最適な手の力を調整することが可能になった印象を受けた.急性期の自然経過としての回復や観念運動失行の併存からSSの明らかな優位性を論じるのは困難だが,脳卒中の感覚障害を伴った片麻痺患者に対して早期からSSを導入する手法が効果的である可能性が考えられた.今後症例数を増やし,治療効果について検証を行っていきたい.