[OA-6-3] 重度上肢麻痺と半側空間無視に対する複合的かつ段階的な作業療法の実践
~急性期から復職を目指して~
【序論】本邦の脳卒中治療ガイドライン2021で亜急性期以後の上肢機能障害に電気刺激療法やCI療法,半側空間無視(USN)に視覚探索訓練が推奨される.しかし,急性期では上記介入効果の合意は得られておらず,これらを複合した段階的なOTの実践報告は少ない.【目的】重度上肢麻痺と左USNを呈した急性期脳卒中者に複合的かつ段階的なOTを行い,その意義を考察する.【事例紹介】A氏,60歳代,男性,診断名はアテローム血栓性脳梗塞(右MCA領域)である.病前は独居でADLとIADLは自立,SE(テレワークで資料作成)をしていた.キーパーソンは妹であった.尚,本報告はA氏の同意を得ている.【OT初期評価】第6病日,左片麻痺はBrunnstrom Stage(BRS)上肢Ⅱ,手指Ⅰ,下肢Ⅴであった. Fugl Meyer Assessment (FMA)4点,Motor Activity Log(MAL)Amount of Use(AOU)0点,Quality of Movement(QOM)0点であった.Mini Mental State Examination(MMSE)21点,Behavioural Inattention Test通常検査(BIT)90点,Cathrine Bergego Scale(CBS)評価者用8.8点,患者用2.5点と左USNを認めた.ADLはBarthel Index(BI)15点,IADL尺度0点と介助を要した.タイピングは14文字/分であった.A氏は「復職」を希望した.【OT計画】目標は「復職」とした.予後予測は脳卒中者の早期自立度予測(二木ら,1982),急性期からのUSNの臨床経過(豊田ら,2000),上肢麻痺の回復良好例(三好ら,1990)を参考にした.介入は急性期に様々な治療法を段階的に移行および併用した上肢機能訓練の試み(廣瀬ら,2019) ,高次脳機能障害の事例に行った視覚探索訓練(河野ら,2019) を参考にした.また,ADL・IADL訓練,家事や復職の支援は妹や外来OTへ引き継ぎを計画した.【経過】第1期(第1-2週)重度麻痺:随意運動介助型電気刺激装置(IVES)の手指装着型電極を用い,介助下で運動(FEE-ES)を行った.視覚探索訓練はペグボードを用い,見本と同じ場所に同じ色のペグを右手で挿す課題を行った.加えて,セルフケア訓練を行った.第2期(第3-4週)中等度から軽度麻痺:手指伸展の出現に伴い,IVESのパワーアシストモードを総指伸筋に用い,修正CI療法を行った.これに視覚探索訓練を組み入れた.また,入浴やIADL,タイピングの訓練を行った.第3期(第5週)引き継ぎ:ADLは自立し,IADLは見守りで行えた.左USNが残存し,IADLや復職の支援を妹や外来OTに引き継いだ.【結果】第38(退院時)病日,BRSⅥ,MMSE30点,FMA61点,MALAOU4.2点,QOM4.4点,BIT141点,CBS評価者用1点,患者用0点と改善した.BI100点,IADL尺度3点となった.タイピングは67文字/分と改善した.第168(外来OT終了後)病日,FMA65点,MALAOU・QOM5点,BIT146点,CBS評価者用・患者用0点,IADL尺度5点となった.目標は達成し,A氏は「家事も仕事もできています」と語った.【考察】急性期脳卒中者の臨床上意味のある最小変化量はFMA10点(Shelton et al,2001),MALQOM1点(Lang et al,2008)としている.また,BITのカットオフは131点である.これらを超える改善から,本介入は意味のある変化をもたらし,ADL自立に至った意義があった.これは,FEE-ESにより麻痺手の随意性を引き出し(Inobe et al,2013),電気刺激療法併用の修正CI療法で損傷側の運動関連領野に限局した適切な賦活を図れたと考える(Shin et al,2008).更に,視覚探索訓練で能動的注意の制御を促し,注意機能を改善させることができた(鹿島ら,1999).急性期から根拠に基づく複合した段階的な介入とADL・IADL訓練を行い,残された課題を引継ぎ,復職できたと考える.本報告は自然回復の影響があるため,複数例での効果検証に繋げたい.