[OC-2-3] ICU管理となった長期人工呼吸器患者に対する早期作業療法
~重症COVID-19 によりPICS を発症した一例~
【背景】
近年,救命救急センターや集中治療室(以下,ICU)における早期リハビリテーションが注目され,ICUでの作業療法の役割や介入効果の確立が求められている.しかし集中治療領域における作業療法の実施率の低さや,作業療法の認知度の低さなどが課題としてあげられており,ICUにおける作業療法においてさらなる報告が必要である.
今回,重症COVID-19,敗血症を発症し長期人工呼吸器管理となった事例において早期作業療法を実施する機会を得た.集中治療後症候群(以下,PICS)を発症した事例に対する早期作業療法が,せん妄症状の改善やコミュニケーション手段の獲得に作用したと考えるため以下に報告する.
【倫理的配慮】
個人情報の保護に配慮し,対象者およびご家族より同意を得た.
【事例紹介】
70歳代女性.Z日COVID-19を発症し自宅療養開始.Z+9日自宅で体動困難となり,当院入院し加療.Z+12日に呼吸状態悪化みられ,ICU入室.Z+22日にさらに呼吸状態悪化みられ経口挿管,人工呼吸器管理となりZ+23日に気管切開術施行.Z+25日呼吸状態安定に伴い作業療法開始.Z+45日ICU退出となり一般病棟での介入継続.
【臨床経過と結果】
Z+25日~:MRC score26/60点,FSS-ICU5/35点と全介助.ICDSC 7/8点 とせん妄症状あり.簡単な従命は可能だが,患者表出は口頭,筆談ともに困難であった.
Z+31日~:頸部など体動著明でデバイス類を引っ張るなどの危険行動がみられた. 鎮静深度評価ではRASS-1~+2と日内でも浮動的であった.意識レベルおよび認知機能賦活を目的としてリハビリ前のじゃんけんを習慣化し,カレンダーに勝敗を記載するじゃんけんカレンダーを作成した.さらに生活のリズムを整えるため毎日同じ時間に介入する方針とし病棟スタッフと協力して端座位訓練を実施した.コミュニケーションに関しては筆談の獲得を目指し上肢筋力強化訓練を開始したが筋力低下の影響で実用的な書字は困難であった.代替として文字盤での指差し等も実施したが,文字盤を叩くなどの言動がみられ攻撃性を強めてしまう状況であった.想いがうまく表出できない際は攻撃性が高まることから,ボール投げ等の攻撃性を発散できる作業活動を導入した.文字盤導入は断念し,最終的には希望の強かった筆談を合意目標として改めて筆談獲得の練習を進めることになった.
Z+45日(ICU退出時):MRC score32/60点.FSS-ICU13/35点.ICDSC 3-4/8点.筋力向上に合わせ筆圧向上,字体の改善を認めた. 日中は穏やかな時間も増え,せん妄改善に伴い危険行動は減少した.
Z+90日(転院時):酸素2Lで酸素化安定.四肢筋力MMT3.FIM40点/126点(運動項目:24点,認知項目:16 点).ICDSC 2点.身体機能,せん妄症状ともに改善.コミュニケーションに関しては筆談で可能となり,内科一般病院へ転院となった.
【結論・考察】
本事例は重症肺炎で長期人工呼吸器管理となりPICSを発症した.ICU入室中の早期から作業療法士が心身機能面にあわせて作業的視点を加えた介入を実施したことで最終的にせん妄症状の改善,コミュニケーション手段獲得の一助になった可能性が考えられる.しかし参考となる指標が確立されていない集中治療領域にとって,介入効果は不透明な部分も多いのが現状である.ICUにおける作業療法実践の知見が集積され,より効果のある手段確立が望まれる.
近年,救命救急センターや集中治療室(以下,ICU)における早期リハビリテーションが注目され,ICUでの作業療法の役割や介入効果の確立が求められている.しかし集中治療領域における作業療法の実施率の低さや,作業療法の認知度の低さなどが課題としてあげられており,ICUにおける作業療法においてさらなる報告が必要である.
今回,重症COVID-19,敗血症を発症し長期人工呼吸器管理となった事例において早期作業療法を実施する機会を得た.集中治療後症候群(以下,PICS)を発症した事例に対する早期作業療法が,せん妄症状の改善やコミュニケーション手段の獲得に作用したと考えるため以下に報告する.
【倫理的配慮】
個人情報の保護に配慮し,対象者およびご家族より同意を得た.
【事例紹介】
70歳代女性.Z日COVID-19を発症し自宅療養開始.Z+9日自宅で体動困難となり,当院入院し加療.Z+12日に呼吸状態悪化みられ,ICU入室.Z+22日にさらに呼吸状態悪化みられ経口挿管,人工呼吸器管理となりZ+23日に気管切開術施行.Z+25日呼吸状態安定に伴い作業療法開始.Z+45日ICU退出となり一般病棟での介入継続.
【臨床経過と結果】
Z+25日~:MRC score26/60点,FSS-ICU5/35点と全介助.ICDSC 7/8点 とせん妄症状あり.簡単な従命は可能だが,患者表出は口頭,筆談ともに困難であった.
Z+31日~:頸部など体動著明でデバイス類を引っ張るなどの危険行動がみられた. 鎮静深度評価ではRASS-1~+2と日内でも浮動的であった.意識レベルおよび認知機能賦活を目的としてリハビリ前のじゃんけんを習慣化し,カレンダーに勝敗を記載するじゃんけんカレンダーを作成した.さらに生活のリズムを整えるため毎日同じ時間に介入する方針とし病棟スタッフと協力して端座位訓練を実施した.コミュニケーションに関しては筆談の獲得を目指し上肢筋力強化訓練を開始したが筋力低下の影響で実用的な書字は困難であった.代替として文字盤での指差し等も実施したが,文字盤を叩くなどの言動がみられ攻撃性を強めてしまう状況であった.想いがうまく表出できない際は攻撃性が高まることから,ボール投げ等の攻撃性を発散できる作業活動を導入した.文字盤導入は断念し,最終的には希望の強かった筆談を合意目標として改めて筆談獲得の練習を進めることになった.
Z+45日(ICU退出時):MRC score32/60点.FSS-ICU13/35点.ICDSC 3-4/8点.筋力向上に合わせ筆圧向上,字体の改善を認めた. 日中は穏やかな時間も増え,せん妄改善に伴い危険行動は減少した.
Z+90日(転院時):酸素2Lで酸素化安定.四肢筋力MMT3.FIM40点/126点(運動項目:24点,認知項目:16 点).ICDSC 2点.身体機能,せん妄症状ともに改善.コミュニケーションに関しては筆談で可能となり,内科一般病院へ転院となった.
【結論・考察】
本事例は重症肺炎で長期人工呼吸器管理となりPICSを発症した.ICU入室中の早期から作業療法士が心身機能面にあわせて作業的視点を加えた介入を実施したことで最終的にせん妄症状の改善,コミュニケーション手段獲得の一助になった可能性が考えられる.しかし参考となる指標が確立されていない集中治療領域にとって,介入効果は不透明な部分も多いのが現状である.ICUにおける作業療法実践の知見が集積され,より効果のある手段確立が望まれる.