第58回日本作業療法学会

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一般演題

運動器疾患

[OD-1] 一般演題:運動器疾患 1

Sat. Nov 9, 2024 2:30 PM - 3:30 PM F会場 (201・202)

座長:櫻井 利康(相澤病院 整形外科リハ科)

[OD-1-2] 血友病を有する患者の人工肘関節置換術に対するリハビリテーションの経験

佐藤 裕子, 松井 泰行 (名古屋大学医学部附属病院 リハビリテーション部)

"1.はじめに
血友病性関節症を有する患者の肘頭骨折に対して,人工肘関節置換術(以後TEA)を施行した症例を経験した.血友病性関節症に対する人工関節置換術実施部位では膝や股関節の報告は多い一方,TEAは比較的稀なためその有用性を報告する.
2.目的・事例紹介
50代男性,右利き.職場で転倒し左肘頭骨折受傷.血友病A(重症型)あり,右肩・左肘・両膝・両足関節に血友病性関節症を認めた.止血治療はエミシズマブ90㎎週1回を定期補充とし,出血時にエフラロクトコグ アルファ1500単位投与であった.身体障害者手帳3級所持.職業は臨床検査技師.受傷後97日目にTEA施行,術後翌日から作業療法を開始,術後27日目から外来へ移行し週1回の頻度で作業療法を実施した.
3.作業療法評価
HAND10:受傷前43/100点,受傷時88/100点,術後90日目46/100点,Quick DASH:受傷前31.8/100点,受傷時75/100点,術後90日目36.4/100点
左肘関節可動域:術後11日目他動屈曲115°,伸展-30°,術後21日目他動屈曲132°,伸展-20°,自動屈曲120°,伸展-30°,術後56日目他動屈曲135°,伸展-10°,自動屈曲135°,伸展-30°,術後90日目自他動屈曲140°,伸展-10°
4.方法・アプローチ
元来の血友病性関節症による肘頭の菲薄化のため骨接合は困難と判断してTEAを施行.
先行文献では肘関節自動介助運動から開始し,徐々に負荷を上げ,術後35日目から重錘を用いた運動を行うが,本症例は上腕三頭筋の保護のため,術後9日目まではオルソグラス固定,肩関節・手指運動中心,術後10日目に外固定除去,肘関節他動運動開始,術後14日目から肘関節自動屈曲(110°まで)開始,術後19日目から肘関節自動運動制限なしとなった.血友病に対する止血治療は,手術前日から術後7日目までイロクテイトを持続輸注で投与,その後は術後13日目まで静脈注射によるボーラス投与を連日施行し,13日目以降は術前のエミシズマブ週1回投与による定期補充による管理となった.また,後療法を進める中で,過負荷による関節内出血を予防するため,疼痛に関してこまめに伺ったり,表情や過緊張等の反応を観察したりすることを行った.
5.結果
術後8週で肘関節他動屈曲135°,伸展-10°,術後3ヶ月で自他動ともに屈曲140°,伸展-10°を獲得した.肘関節が影響する日常生活動作は受傷前に近い状態まで改善した.特に,HAND10とQuick DASHの疼痛の項目に関しては受傷前より大幅に改善を認めた.
6.考察
血友病性関節症による変形した肘関節に骨折を併発した症例に対してTEAを施行し,良好な固定性を得た.血友病患者は以前より生命予後の改善による寿命の延伸によって加齢による併存症のリスクが高くなった.骨粗鬆症の併存が病態に関与したと考える.獲得可動域は先行文献におけるリウマチ患者に対する一般的なTEAと同程度であった.また,術後2カ月以降も週1回の外来でフォローを継続していたため,伸展角度を拡大し,維持することができた.加えて,医師による薬剤調整や症例の手術内容に合わせた後療法,作業療法を進める中での疼痛の度合いの確認により,出血をはじめとする血友病特有のリスクを抑え,可動域改善や除痛といった効果を得ることができたと考える."