第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

運動器疾患

[OD-1] 一般演題:運動器疾患 1

2024年11月9日(土) 14:30 〜 15:30 F会場 (201・202)

座長:櫻井 利康(相澤病院 整形外科リハ科)

[OD-1-5] 広範囲重症熱傷患者に対する急性期からの作業療法経験

~ ADL の予後予測を基にした介入と多職種連携に着目して~

竹原 脩一郎1, 吉村 学2, 竹丸 修央1, 桐谷 光1, 妹尾 勝利2 (1.川崎医科大学附属病院 リハビリテーションセンター, 2.川崎医療福祉大学 リハビリテーション学部作業療法学科)

【はじめに】重症熱傷は,救命後の早期リハビリテーションが重要である.我々は,重症熱傷を受傷し,特に上肢の機能予後が不良と予測された症例に対して,日常生活動作(以下,ADL)に必要な機能を想定した介入と多職種連携により食事動作獲得に至った経験をした.今回は,熱傷急性期に対する作業療法(以下,OT)の役割と多職種連携におけるポイントについて若干の知見を得たので報告する.
【倫理的配慮】本発表に関して症例に説明し,同意を得た.
【症例紹介】右利きの70歳代男性,独居で農作業をされていた.野焼きの火が服に燃え移り,頭頸部・胸部・両腋窩と両上肢・手部全周性の熱傷を受傷した.熱傷受傷面積40.0%,Ⅲ度熱傷面積37.0%,熱傷予後指数112.5であった.気道熱傷は認めず,大量輸液と減張切開を要すため挿管管理となり,右肘頭部の関節包は開放していた.
【OT経過】
1.ショック期から両肘関節以遠の植皮術まで
 OTは第2病日より開始した.救命優先のため,デブリドマンと植皮術は頸部・胸部・両腋窩~上腕から施行し,両肘関節以遠は回復に合わせて検討する方針であった.包帯交換時に創部を確認し,両前腕~手背はⅢ度熱傷であり,MP関節伸展・PIP関節屈曲・母指内転位での拘縮が予測された.そのため,手関節背屈・MP関節屈曲・PIP関節伸展・母指外転位でスプリントを作製した.第4病日のカンファレンスにて,看護師にスプリントの目的を説明し,装着と当たりの観察を依頼した.第11病日に頸部・胸部~上腕の植皮術が施行され,第18病日より右肘関節以外の関節可動域(以下,ROM)運動と離床が許可された.四肢は抗重力位運動が困難であり,疼痛の影響とICU-acquired weaknessが疑われた.手部は運動時痛が強く評価困難であり,ADLは全介助であった.第25病日のカンファレンスにて,医師から両手部は壊死組織の融解が進みMP関節が不安定なこと,3週後に両肘関節以遠の植皮術を計画していることが説明された.OTからは,まずは食事動作獲得を目指し,目標として左上肢はスプーンの把持・操作が可能なこと,右上肢は皿の把持など補助手として使用可能なことを挙げた.また,創部の運動時痛と上肢の筋力低下が問題点であることを共有し,包帯交換時に鎮痛下でROM運動と筋力増強運動を行うこと,手部は植皮術まで安静としスプリントで良肢位を保持する方針となった.その後は,包帯交換時に疼痛自制内でのROM運動と筋力増強運動が可能となり,自動介助で食事動作訓練も可能となった.また,手部の状態も観察し,スプリントを調整していった.
2.両肘関節以遠の植皮術から食事動作獲得まで
 第48病日に両肘関節以遠の植皮術が施行された.第55病日より両手部は自動運動が可能となり,3指の指腹つまみでスプーンの把持が可能となった.そのため,カンファレンスにてスプリントは就寝時のみ装着し,日中は上肢を使用することを共有した.その後,第80病日に左上肢でスプーンを操作して食事動作獲得,第98病日に人工呼吸器離脱,第104病日より食事摂取開始,第106病日に3食自己摂取となった.植皮部の二次収縮は持続しており,就寝時のスプリント装着は継続した.
【考察】本症例を通して熱傷急性期におけるOTの役割として,受傷部位や深達度から今後生じる変形拘縮や将来のADLを予測すること,予測を基にスプリントによる良肢位保持や鎮痛下での訓練を行い,ADL獲得に繋げることが考えられた.また,多職種連携のポイントとして,OTとしてADLや上肢機能の目標を多職種で共有すること,多職種にスプリントの目的の理解と適切な管理を促すこと,疼痛をコントロールしながらの訓練環境を作ることが示唆された.