[OD-4-4] 遠位型頚椎症性筋萎縮症により生じた下垂指に対し麻痺筋腱を温存した腱移行術を施行した一例
【はじめに】遠位型頚椎症性筋萎縮症(以下,CSA)によるC8神経根障害により左手の下垂指を呈した症例を経験した.麻痺筋腱を温存した腱移行術を施行された症例に対する術後リハビリの経過について報告する.なお,本発表に際し対象者に口頭および書面にて説明し,同意を得ている.【症例提示】66歳女性.X-1年に左肩周囲疼痛後に下垂指が出現し,近医を受診した.頸椎MRI検査,末梢神経伝導検査を施行し,手術適応ではないと判断され,リハビリを行ったが,改善がみられず,X年に当院を受診した.MRI,左手の下垂指や背側骨間筋萎縮などの所見から,CSA によるC8神経根障害と診断された.症例は調理動作で食物や物品を把持しやすくなることをニードとし,母指橈側外転獲得を希望され,筋力回復の可能性も考慮し,麻痺筋腱を温存した腱移行術を施行した.術前評価:A-ROMは,母指橈側外転35°,MP伸展は示指から0°,-15°,-20°,-30°,手指屈曲,手関節は正常であった.MMTは,母指,手指伸筋群,背側骨格筋1-2,尺側手根屈筋3+,橈側手根屈筋と手指屈筋群4-5,握力:17.5kg,ピンチ力:0kg,SW-T:橈骨神経領域,尺骨神経領域3.84-4.31,STEF92点であり,筋力低下,巧緻動作障害を認めた.FIM117点とADLは自立していたが,DASH24.1点であり,IADLでは物品把持や調理動作に不便さを感じていた.HDS-R30点で認知機能,アドヒアランスは良好であった.手術方法は,橈側手根屈筋腱(以下,FCR)を総指伸筋腱(以下,EDC)へ,長掌筋腱を長母指外転筋腱,短母指伸筋腱へ移行した.縫合方法は3回以上のインターレース縫合であり,術後は早期自動運動法で介入した.【経過】術後8週間は,安静時は手指,手関節伸展位保持装具で固定し,4週までは,手関節掌屈角度を各週0-10°ずつ拡大し,腱移行部の減張位を保ちながら母指橈側外転,手指伸展のswitching訓練,Reverse Duran法,手指内外転を実施した.5週目からは,手指総自動屈曲,伸展を開始し,ピンチ,グリップ訓練と徐々に負荷を上げ,下垂指は早々に改善した.しかし,母指橈側外転と手関節掌屈に可動域制限が残存したため,母指橈側外転は最終域まで自動介助しplace&holding exerciseを継続した.手関節掌屈制限は,主治医と相談し,腱の張力に十分注意して8週目から手関節掌屈と手指同時屈曲を開始した.術後24週時点でダイナミックテノデーシス様の手関節掌屈は可能になったが,掌屈位での手指屈曲や,意識下での手関節掌屈は困難であった.評価結果は,A-ROM:母指橈側外転60°,手関節掌屈35°,MP伸展は示指から,-26°,0°,0°,0°,MMT:母指,手指伸筋群,背側骨格筋4-5,尺側手根屈筋2+,握力:8.6kg,ピンチ力:1.2kg,SW-T:3.22-3.61,STEF88点となり,手指筋力,触覚が改善を認めた一方,手関節掌屈筋力と握力低下が残存した.FIM126点,IADLでは,調理動作で左手を使用することが可能となり,DASHは10点へ改善した.ニード達成に伴い,主観的QOLの向上を認めた.【考察】腱移行術により,下垂指,母指外転機能の改善,手指筋力向上が得られた.しかし,手関節掌屈制限が残存しており,EDCの拮抗筋であるFCRを用いたことでswitchingに時間を要したことや,尺骨神経領域の麻痺により尺側手根屈筋の筋力低下を起こしていた可能性が考えられる.腱移行術後のリハビリにおいて移行腱温存と拮抗筋とのバランスが重要であり,術前後での手関節掌屈に対する介入方法を検討することが今後の課題である.