第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

精神障害

[OH-1] 一般演題:精神障害 1

2024年11月9日(土) 12:10 〜 13:10 F会場 (201・202)

座長:大野 宏明(川崎医療福祉大学 リハビリテーション学部作業療法学科)

[OH-1-4] 精神科病院における摂食・嚥下に関する多職種との取り組み

伊藤 友希 (西八王子病院 リハビリテーション科 疾患別リハビリテーション部門)

【はじめに】精神科病院における肺炎の多くが高齢者の誤嚥性肺炎と考えられているが,民間立の精神科病院の中で嚥下機能評価及びリハビリテーションに関して専門的に支援できる施設は皆無に近い(清野由美子,2021).当院でも,誤嚥性肺炎や食事でのむせ込みなど嚥下機能低下が疑われる患者はいるものの,言語聴覚士(以下ST)が在籍しておらず摂食・嚥下機能に対するリハビリテーションの依頼が少ないという現状があった.そこで,当院と同敷地内にある介護老人保健施設に勤務するSTと多職種での介入を6ヶ月実施した結果,患者の摂食・嚥下機能に変化が見られたため報告する.なお,本研究は当院の倫理委員会の承認を得た.
【目的】本研究の目的は,摂食・嚥下機能の評価及び訓練が必要な患者に対し多職種が連携してアプローチすることで,入院患者の摂食・嚥下機能の向上を図ることである.
【対象】当院に勤務している医師・看護師・管理栄養士(NST担当)にアンケートを実施し摂食・嚥下機能の評価及び介入を必要としている患者を抽出し,評価及び訓練の同意を得た入院患者10名(経鼻経管栄養8名,ソフト食1名,禁食1名)を対象とした.
【方法】STの介入は月2回に設定し,疾患別リハビリテーション部門に所属する作業療法士(以下OT)への勉強会と介入後のフィードバックを中心に実施した.月2回の介入とフィードバックには管理栄養士も可能な限り同席した.臨床では介入時点で経口摂取をしていた1名以外はスクリーニング検査から実施し,口腔状態,口唇・舌運動,血中酸素飽和度,頸部聴診,反復唾液嚥下テスト,改訂版水飲みテスト,水飲みテスト,えん下困難者用ゼリーでの食物テストを対象の状態に合わせて実施した.摂食・嚥下訓練は,基礎訓練(のどのアイスマッサージ,口腔ケア,頭部挙上訓練,頸部関節可動域訓練,嚥下体操,ハフィング)と直接訓練(姿勢調整,えん下困難者用ゼリーでの訓練)を実施した.評価結果や食事介助でのポイントなどは書面に纏め,病棟で同一の対応が出来るよう看護師と共有した.実際の食事場面の評価では,食事時間,血中酸素飽和度,むせ込み・湿性嗄声の有無,頸部聴診,KTバランスチャートでの評価を実施した.
【結果】経管栄養管理であった8名のうち2名は自己摂取にて3食経口摂取可能,1名は介助での経口摂取可能となった.2名はえん下困難者用ゼリーでの摂食訓練を継続,3名はスクリーニングにて誤嚥リスクが高いと判断したため基礎訓練を実施し再評価しながら経管栄養からの離脱を検討していくこととなった.ソフト食1名は食事中のむせ込みが減少し,現在も食事動作自立で経過している.禁食であった1名は禁食期間終了後,介助でのペースト食摂取が可能となったが内科的な問題により再び禁食となった.
【まとめ】精神疾患を持つ患者は9〜42%に摂食嚥下障害を合併するとされ(Aldridgeら,2012),活動性低下や鎮静・抑制による廃用性変化,老化,向精神薬自体の副作用も摂食嚥下障害を引き起こし増悪させることが知られている(中村智之,2021).今回,経管栄養から経口摂取への移行やむせ込みの減少といった摂食・嚥下機能の向上が認められたことから,多職種での摂食・嚥下機能への介入は患者の摂食・嚥下機能向上に効果的であったと考える.本研究では多職種連携による職員の食事に対する関心の変化について調査できなかったため,今後は職員の意識変化と患者の摂食・嚥下状態の関係についても研究していきたい.