第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

発達障害

[OI-2] 一般演題:発達障害 2 

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 F会場 (201・202)

座長:倉澤 茂樹(福島県立医科大学 )

[OI-2-2] 一医療機関に通う学齢期の発達障害児における不登校と感覚処理の問題との関連

車井 元樹1, 山口 佳小里2, 河野 眞3 (1.国際医療福祉大学成田病院 リハビリテーション技術部, 2.国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部, 3.国際医療福祉大学 小田原保健医療学部作業療法学科)

【はじめに】
近年,不登校と発達障害の関連性が指摘されている.発達障害児の不登校の要因には対人関係の問題や学習の問題,家族機能の問題,感覚処理の問題等がある.そのうち,不登校と感覚処理の問題については発達障害を有する不登校児童生徒に感覚処理の問題が認められたとの事例研究が散見される程度で,不登校と感覚処理の問題との関連について統計手法を用いて分析している先行研究はない.
【目的】
一医療機関に通う学齢期の発達障害児を対象に不登校と感覚処理の問題との関連を感覚モダリティに着目し統計手法を用いて分析する.
【方法】
 対象は2020年3月16日から2022年11月30日までに国際医療福祉大学成田病院のリハビリテーションを利用した学齢期の発達障害児154人とし,リハビリテーション初回評価時の診療記録から不登校の有無,学年,感覚処理の問題の有無,社交不安の有無に関する情報をそれぞれ抽出した.なお,不登校の有無はリハビリテーション初回評価時点で不登校であった児を不登校有りとした.感覚処理の問題は「感覚過敏や感覚鈍麻等の感覚刺激に対する異常な反応とそれらの影響による行動反応」と定義した上で,日本版感覚プロファイルの感覚処理の6セクション(聴覚,視覚,前庭覚,触覚,複合感覚,口腔感覚)を用いて感覚処理の問題の有無を評価した.社交不安の有無は児童青年期版リーボヴィッツ社交不安尺度のカットオフ値に従って評価した.分析では診療記録から抽出した情報を不登校有り群と不登校無し群に分類した上で単純集計を実施した.不登校と感覚処理の問題との関連については不登校の有無を従属変数,感覚処理の問題の有無を独立変数,学年および社交不安の有無を調整変数としたロジスティック回帰分析を実施した.なお,本研究は国際医療福祉大学研究倫理審査委員会の承認を得て行った.
【結果】
単純集計の結果,不登校有り群は学齢期の発達障害児154人のうち70人(45.5%)であった.学年に関しては不登校有り群70人中33人(47.1%)が小学校4年生から6年生であり,29人(41.4%)が中学生であった.感覚処理の問題に関しては不登校有り群70人中52人(74.3%)に触覚の問題を認め,これが最も多かった.社交不安に関しては不登校有り群70人中58人(82.9%)に社交不安を認めた.
ロジスティック回帰分析の結果,不登校との関連を認めた感覚処理のセクション(オッズ比,95%信頼区間)は視覚(2.32,1.09 – 4.90)と触覚(2.49,1.13 – 5.47)であった.
【考察】
 本研究では学齢期の発達障害児の約半数に不登校を認め,そのうち約90%が小学校高学年以上で,約80%が社交不安を抱えていた.ロジスティック回帰分析の結果では不登校と視覚処理,不登校と触覚処理に有意な関連を認め,学齢期の発達障害児の不登校には視覚処理の問題および触覚処理の問題が関連している可能性が示唆された.しかし,発達障害児の不登校の要因には家族機能等の環境因子の影響があることが報告されており,本研究では環境因子について十分に調整できていない.そのため,今後は環境因子を調整した分析が肝要となる.
【結語】
 本研究では学齢期の発達障害児を対象に不登校と感覚処理の問題との関連を分析した.その結果,不登校と視覚処理および触覚処理の問題との関連が示唆された.