第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

発達障害

[OI-2] 一般演題:発達障害 2 

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 F会場 (201・202)

座長:倉澤 茂樹(福島県立医科大学 )

[OI-2-4] 発達性協調運動症を併存する自閉症スペクトラム症児へファスナー指導した一事例

上田 敏宏 (島田療育センターはちおうじ リハビリテーション科)

【序論】発達性協調運動症(以下:DCD)は,神経発達症の分類で協調運動の困難さを診断するものである.さらに協調運動の困難さは,他の神経発達症と高頻度に併存することが明らかになっている.具体的な指導の中でファスナーに関する報告は皆無である.今回,DCDを併存した自閉症スペクトラム症(以下:ASD)児が,ジャンパーのファスナーを装着できないという主訴に対して動作分析と視覚優位の特性を踏まえた道具の工夫を行った結果,改善が見られたので考察を加えて報告する.尚,本報告にセンター内倫理委員会の承認を得ている.
【目的】 DCDを併存するASD児へのファスナー装着獲得方法を検討
【方法】 動作分析して工程ごとに視覚的にわかりやすい手がかりや道具の工夫を検討した課題指向型アプローチを行う
【症例紹介】 6歳1ヵ月の年長男児.診断名:ASD,DCD
【評価】ファスナー装着の動作分析:スライダーと蝶棒から離れた所を持ち,蝶棒をスライダーの穴に差し込むことができず,繰り返しやって差し込むことができたが,蝶棒を奥まで差し込む前に引き上げてしまうため,スライダーは上がらなかった.逆のファスナーを下して外すことはできた.
J-MAP:総合点2%ile, 基礎能力1%ile, 供応性1%ile, 言語59%ile, 非言語15%ile, 複合6%ile.
SP‐J:低登録,感覚回避スコアは高い,感覚過敏,感覚探求スコアは平均.WISC-Ⅳ:FSIQ:95,VCI:97,PRI93,WMI:103,PSI:91
【介入・経過】 ファスナーを通す動作工程を①蝶棒とスライダーの近くをつまむ,②蝶棒をスライダーに通す,③蝶棒を箱の奥まで押し込んでスライダーを引き上げるの3工程に分けて指導を開始した.
工程①は,持つ位置を口頭と指さしで伝えても毎回違うところを持ってしまうことから,持つ位置にクリップを挟むことで目印つけた.これにより蝶棒とスライダーの近くを持つことができるようになった.
工程②は,塩胡椒入れの小さい穴に爪楊枝を入れる練習を行った.次に大きなファスナーを使用して段階づけしてできたら小さいサイズで練習を行うとできるようになった.
工程③は,太いストローに細いストローを通す練習を行った.太いストローから細いストローがはみ出さないように調整する練習で奥まで押し込む意識づけと力加減の練習を行った.しかし,ファスナーで行うと奥まで押し込む前に少しでも抵抗があると奥まで押し込んだと思い,できなかった.そこで大きなストローの縦に切り込みをいれ,小さいストローに電車シールを旗のようにつけて,電車シールをつまんでスライドさせて大きなストローから飛びださないように工夫した.症例はこれを駅に止まる電車に見立てて楽しく取り組むことができた.次の段階で練習用ジャンパーの蝶棒と箱の位置が合う所でマジックの線を書き,「ここで停車だよ」と伝えると理解でき,家でも取り組めた.
【結果】 ジャンパーのファスナー装着が自立した.さらに母より,周りからも褒められて自分から身の回りのことを積極的に行う場面が増えて自信がついてきたという報告があった.
【考察】ファスナーの装着の運動は差し込んで引っ張りあげる比較的簡単な運動である,しかし,仕組みは小さためにわかりにくく,細部の目と手の協調さが必要である.この仕組みを工程ごとに分けて,大きいものを使用するなど段階づけた指導,視覚的な手がかりと指先の力加減などの体性感覚情報を識別できる指導,これらを統合して目と手の協調運動を指導した結果,ファスナー装着ができたと考えられた.また自分の力で成し遂げられたことが自己効力感の向上となり,日常生活への波及効果が伺えたと考えられた.