第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

高齢期 /内科疾患

[OJ-3] 一般演題:高齢期 3/内科疾患 1 

2024年11月10日(日) 09:40 〜 10:40 F会場 (201・202)

座長:本家 寿洋(北海道医療大学)

[OJ-3-3] リズミック運動評価システムの開発と臨床応用:フィージビリティ研究

斎藤 和夫1,2,3, 鈴木 誠1,2,3, 小山 真紀4, 二木 淑子5, 山本 淳一3 (1.東京家政大学 健康科学部リハビリテーション学科, 2.東京家政大学大学院 人間生活学総合研究科, 3.東京都立大学 システムデザイン学部, 4.岐阜大学 流域圏科学研究センター, 5.岡山医療専門職大学 健康科学部作業療法学科)

背景 歯磨きや包丁操作といった休みなく動作を反復するリズミック運動は,運動誤差に関する空間的および時間的情報を連続的に処理して次の周期の運動を修正しなければならないことから,高次の心身機能を反映すると考えられている.我々はリズミック運動を簡易に計測しえる新しいシステム(Eye-Hand Coordination Pointing with Pencil Test:EHCPPT)を開発した.EHCPPTは,一定周期(テストA)あるいはランダム周期(テストB)のビープ音に合わせてタブレットに表示された六重同心円の中心をペンでタップする課題で,同心円中心からの空間的逸脱度とビープ音からの時間的逸脱度を評価することができる.我々は,135名の高齢者を対象にしてEHCPPTの再現性と妥当性を検証したところ,高い再現性および妥当性(心身機能と有意な相関)を有することを明らかにした(Saitoら, Medicine 2023;102:e360252023).そこで本研究では,EHCPPTの臨床現場への実装を目指し,フィージビリティ(臨床応用可能性)を検証することを目的とした.
方法 リハビリテーションに関する臨床経験が4年以上のセラピスト12名(女性7名,男性5名,平均年齢37歳)を対象とした.対象者にEHCPPTの使用方法を教示した後,操作を体験させた.その後,EHCPPTのフィージビリティを7つの観点(需要,技術,経済,法律,運用,リスク,組織)についてそれぞれ1点(非常に強く同意しない)から7点(非常に強く同意する)のリッカート尺度で評価させた.加えて,「各観点について,なぜそう判断したか」について自由記述によって回答させた.
倫理的配慮 本研究は東京家政大学倫理審査委員会によって承認され(承認番号SKE2021-22),ヘルシンキ宣言に則って実施された.また,全ての対象者にはあらかじめ研究内容に関する十分な説明を行い,本研究への参加についての同意を文書にて得た.
結果 EHCPPTのフィージビリティに関する7つの観点におけるリッカート尺度得点の中央値(四分位範囲)は,それぞれ6点(6–7点),7点(6–7点),6点(6–6点),7点(6–7点),6点(6–7点),6点(6–7点),6点(5–7点)だった.また自由記載では,「簡便に実施できる」「身体機能だけでなく認知機能についてのスクリーニングテストとして利用できそう」「結果のフィードバックがリアルタイムで可能である」「対象者の心身機能を時系列的に計測することはリハビリテーションの効果を高めることにつながる」「小脳疾患,脳卒中,上肢の整形外科疾患などに有効」などの意見が認められた.
考察 EHCPPTは,7つの観点すべてにおいて高いフィージビリティを有することが示唆された.これまでのリズミック運動課題では,3次元解析装置などを用いて高齢患者におけるリズミック運動を評価する試みがなされてきた.しかし,従来の課題では,高額で大型の計測装置を使用する必要があるため,フィージビリティに限界を有していた.EHCPPTはペンとタブレットがあれば簡便かつ安全に実施することができることに加え,計測された空間的および時間的逸脱度から対象者の心身機能障害の程度を推定することが可能である.この点が,7つの観点すべてにおいて高いフィージビリティを有した原因であると考えられる.今後は,EHCPPTを臨床現場に実装し,高齢患者の心機能障害の評価に応用していきたい.本研究は,JSTムーンショット型研究開発事業【JPMJMS2034】の支援を受けて実施された.