第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-2] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む)2

2024年11月9日(土) 13:20 〜 14:20 G会場 (206)

座長:石川 健二(大阪人間科学大学 )

[OK-2-2] 左同名半盲,半側空間無視を呈した右後頭葉出血の患者に対しコンピューターによる訓練を実施し改善を認めた症例

大野 千尋1, 阿瀬 寛幸1, 高倉 朋和1, 和田 太2, 藤原 俊之3 (1.順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター リハビリテーション科, 2.順天堂大学保健医療学部理学療法学科, 3.順天堂大学大学院医学研究科リハビリテーション医学)

【はじめに】右後頭葉脳出血後,左同名半盲と左半側空間無視を呈した患者に対し,左視野注意機能改善を目的として,コンピューターを用いた視覚探索課題を実施した.早期の改善を認め,自宅退院に至ったため報告する.なお,当報告はプライバシーに最大限配慮を行い,該当患者に同意を得ている.
【症例】70代男性,右利き.既往歴は特になし.入院前は独居で,高校卒業後から蕎麦職人として働いていた.X年Y月Z日,右後頸部痛と同名半盲を自覚,Z+1日に近医眼科受診,当院脳神経外科紹介受診ののち右後頭葉の皮質下出血の診断の為入院,保存加療の方針となった.Z+3日よりPT OT 開始となった.
【経過】当初は左半側空間無視の自覚はなく,左側のものにぶつかる・躓く等の実場面での失敗に対して対処法が見出せなかった.そのため,当症例ではコンピューターを用いた視覚探索課題を導入した.コンピューターでの視覚探索課題は高次脳認知機能トレーニングシステムRehaCom®(KISSEI COMTEC社)の「探索」を使用した.課題は,難易度の段階づけが可能であり,徐々に複雑な課題としていった.コンピューター課題と並行して,実場面動作の評価・指導も行った.視覚探索課題開始時は課題難易度を下げて実施したが,継続により失敗を繰り返しながら徐々に課題難易度が向上,日々改善を認めた.課題開始(Z+18)+6日頃より,指差しや頸部左回旋し右視野で見るなどの代償行動が観察されるようになった.コンピューター課題で代償行動を用いて行えたことに伴い,実動作場面でも同様の代償行動を用いて確認を行い,失敗が減少した.
【結果】リハビリテーション治療開始時,眼科医診察の結果,左同名半盲と診断された.バレー徴候(-),握力:右33.6kg左27.7kg,明らかな運動麻痺はなかった.高次脳機能評価結果は初回評価時(Z+9〜17日)→最終評価時(Z+29~32日)で記載する.MMSE:25→25 点. TMT-J:PartA218→173秒,PartB 中止(所要時間551秒で⑩まで)→274秒 .コース立方体テスト IQ:60.4→79.BIT《通常検査》126→140点《行動検査》67→81点.VPTAの初期結果は,模写課題や漢字書字,錯綜図でエラーが見られた.最終評価では多くのエラーが認識できるようになった.ADL・IADL自立可能となったため,Z+36日自宅へ退院した.
【考察】Itoら(2022)は,急性期脳梗塞病変における視野障害はADLが自立していても支障をきたすとしている.本症例は当初視野狭窄の自覚はあったが,左側のものにぶつかる等の左視野注意機能低下がADL・IADLの阻害因子となっていた.
 Katrineら(2019)は視空間症状を呈した脳卒中亜急性期群に認知コンピュータートレーニングを実施し有意な改善を認めたとしている.本症例におけるコンピューターを用いた視覚探索課題を用いる利点として,以下三点を考えた.①繰り返しランダムな刺激提供が容易に行え,見落としに対して視覚刺激と音で表示され,気づきを得やすい.②課題の正答数等により次の難易度の段階付けが容易である.③画角の調整により,机上課題より広い視野で探査課題を実施できる.加えて宮崎ら(2015)をはじめ複数の文献で,左半側空間無視における早期の病識理解はその後の改善と関与があると報告されている.以上より,本症例も発症早期からのコンピューター課題による代償行動の定着と,実場面でのトライ&エラー学習による見落とし改善が,早期退院に寄与したのではないかと考えた.