第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

地域

[ON-2] 一般演題:地域 2

2024年11月9日(土) 13:20 〜 14:20 E会場 (204)

座長:山田 恭平(北海道千歳リハビリテーション大学 )

[ON-2-4] 小規模の飲食店における作業療法の活用

~共に働き,共に成長する~

中嶋 有亮 (Coffee House Sheep)

【序論】
昨今,日本の雇用障害者数は増加し続けているが¹),全企業のうち0.3%の大企業と15.2%の中小企業で障害者雇用の74.8%を担っている²)³).今後,障害者雇用を拡大していく為には小規模企業での雇用促進も重要である.当店は小規模の個人事業である.2023年から障害者を順次雇い入れており,多くの実践知を得ている.そこで,今回は小規模の飲食店における障害者雇用の実践報告を行い,労働現場での作業療法の可能性を考察する.
【方法】
2023年6~10月まで在職した障害者トライアル雇用制度利用の女性1名が対象である.働く上での課題と対応を検討した.対象期間の特定商品販売数,来客人数,売上を雇用前後で比較した.本発表への同意は口頭にて対象者へ説明し得た.ICFニーズ:調理を担当したい.健康状態:視神経脊髄炎(2007年~),身体6級(2020年1月~).身体機能:視力右0左矯正0.5.小さな文字は読みにくい.運動機能は問題なし.活動:遠近感が掴みにくく,慣れない場所では身体が物や人にぶつかる等あり.参加:免疫抑制剤常用のため,感染症や疲労,外傷に注意が必要.視力障害発症後は外出頻度減少.個人因子:料理関連の知識欲が高い.飲食店巡り,お菓子作り等が趣味(視力障害発症後,非実施).環境因子:独居(婚姻,成人子有),当店まで徒歩圏内.雇用保険有.
【結果】
物的対応:視力障害に対して,メニュー表の改訂,調理器具の変更等を行った.疲労に対して,調理場に換気設備設置,一定時間毎に涼しい客席で接客してもらう等の声掛けを行った.心理的対応:対象者は店主の親世代であり,子供や孫,育ってきた環境等の話題で自然と打ち解けた.主婦として家族を支えてきたことに誇りを持っていた為,その経験からのアドバイスや飲食店巡りから得た知見等を積極的に取り入れた.特定商品販売数:自家製プリン/プリンアラモード販売数6月7点→7月25点.来客人数:(6~10月,平均)前年9.23人/日→当年17.25人/日(前年比153.51%).売上(6~10月):前年1,506,014円→当年2,245,760円(前年比149.12%).
【考察】
対象者は難病発症後,職場等の周囲の理解が得られにくく,「分かってもらえない」という思いを抱いていた.視力障害発症後,生活が安定してきた所で働く意欲が出てきたが,また嫌な思いをするのではないかと就労を躊躇っていた.しかし,公共職業安定所の支援担当職員から,障害者併用求人を出していた当店をご紹介頂き働くに至った.対象者は当店に就労して「生活にメリハリができて,以前よりも出掛けるようになった.」「好きなことを仕事に出来た.」「話を聞いてくれる方が店主で良かった.」との事であったが,治療法の変更に伴い主治医の判断でやむなく退職となった.今回対象者は,当店に就労することによって余暇活動も充実し,仕事にもやりがいを感じていた.機能障害に対する配慮を前提に,対象者の意志や価値観を意識してコミュニケーションをする事で,最大限能力を発揮できる環境を作る事ができたと考えられた.また,増益,作業効率向上,従業員の働きやすさ等,企業活動にも良い影響を与えた.障害者雇用は,できる作業のみを提供するのでは無く,労働環境と障害特性の評価を行い,企業側が積極的に現状の見直しを行う事で,障害者と企業は共に成長できる.作業療法士は,対象者の症状の理解と共に取り巻く環境や作業にも視点を置く.障害者雇用に作業療法士が関わる事で,企業の利益と対象者の能力を最大限活かす事ができると考える. 1)厚生労働省:令和4年障害者雇用状況の集計結果,報道発表資料,2022年12月 2)内閣府:平成25年版障害者白書(概要).第1編障害者の状況等,第1章障害者の状況 3)中小企業庁:中小企業・小規模事業者の数の集計結果2021年6月