第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-2] ポスター:脳血管疾患等 2

2024年11月9日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-2-15] 感覚性運動失調症に対し,動画によるフィードバックにて運動錯覚を誘因し上肢機能・ADLが改善した症例

佐藤 僚太 (日本医科大学武蔵小杉病院 リハビリテーション室)

【はじめに】
近年,神経可塑性の観点からもミラーセラピー,ビデオフィードバック(以下VF)のような運動錯覚を用いた介入が有力視されているが,失調症状に対しVFを用いた介入報告は少ない.河島によると,感覚性運動失調症例に対するリハビリテーションでは,病態の原因となる感覚障害に対するアプローチとともに,過度な運動出力の軽減や,視覚に対する過度な依存を低減させるようなアプローチを併用することが重要となる,と述べている.今回は感覚性運動失調を併発した脳卒中患者に対しVFによる介入を行ったところ,即時的な効果を実感でき,ADLアップに繋げることができたため,ここに報告する.なお,本報告に際し,本人,家族に説明を行い同意を得ている.
【事例紹介】
視床穿通支の塞栓性脳梗塞の80代女性.左BRS:Ⅴ・Ⅵ・Ⅴ,上肢FMA:49/66,STEF:左36点,表在感覚:4/10,母子探しテスト:3度,ロンベルグ:陽性,SARA:18点,FIM:83/126(運動48認知35).麻痺は比較的軽度であったが失調症状強く,生活動作では揺れる左手に恐怖感を覚え左手をほぼ使えていなかった.
【方法】
箱の中に患者の患側上肢をもぐりこませ,肘位遠が見えないように遮断し,10インチ大のタブレット端末を箱の上にセッティングする.あらかじめ健側上肢でサンディングを行う動画を録画し,それを左右反転させ箱の中の患側上肢とタブレットの映像の上肢が重なり合うように位置を調整し,映像に合わせ患側上肢を動かしてもらった.これを約10分,毎回の訓練の前半に実施し,しびれ具合と動かしやすさのVASを計測した.
【結果】
介入開始から34日で,左BRS:Ⅴ・Ⅵ・Ⅵ,上肢FMA:54/66,STEF:左60点,表在感覚:8/10,母子探しテスト1度,ロンベルグ:陽性,SARA:9点,FIM:106/126(運動71認知35).VASは最終的にはしびれの強さ(90→16)動かしやすさ(26→77)と変化.本人からは「左手を使うのに怖さがなくなった」とのポジティブな反応があり,生活場面での左手使用頻度は向上した.
【考察】
今回の症例は感覚障害に伴うフィードバック情報の欠落が失調症状をもたらしていると考えられ,感覚性運動失調症であることが疑われた.また,二次的な症状として麻痺則上肢の不使用が見られた.先行研究では,運動錯覚誘起中には線状体をはじめとする,脳神経回路網活動が活発になり,中でも線状体には大脳基底核の運動系ループにおける間接路を介して運動を抑制する機能がある,と述べられている.今回のVFでは視線は画面のみに注がれ,患肢に対する視覚の依存が制限されたことで,体性感覚の入力が強化され,過度な運動出力を抑えた体性感覚に頼った上肢運動にシフトされたものと考える.また,VAS結果から患者の患肢に対する自己評価の向上が確認でき,手本のような正確な動きを直感的に学習することで,患者の中で運動誤差が修正され,日常動作での応用化が容易になりFIM向上につながったものと考える.しかし,今回は短期間の介入であるため,偶然性や脳の自然回復の可能性は否定できず,この訓練がどの程度回復に影響したかは判断が困難であると考えられる.今回の経験をもとに,今後はVFによる訓練時間や実施方法も検討していきたい次第である.