第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-3] ポスター:脳血管疾患等 3

2024年11月9日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-3-12] Lateropulsionと眼球運動障害が遷延した左小脳梗塞および延髄外側梗塞例

多方面からのアプローチにより歩行やADL自立に至った症例

村上 奈保, 早川 直之, 長谷川 恵美, 片山 ありさ (特定医療法人 博仁会 第一病院 リハビリテーション室)

【はじめに】
 延髄外側病変において病巣側へ身体が不随に倒れるlateropulsion(以下:LP)や,眼球の病巣側への側方突進(ocular lateropulsion:以下OL)が生じることがある.今回,回復期病棟入棟時にLPとOLと思われる症状が遷延していた症例を担当し,改善を認めたため報告する.
【症例紹介】
 40歳代男性.左小脳梗塞,椎骨動脈解離にてA病院入院.脳画像より延髄左側梗塞も認めた.第30病日に当院転院,第39病日より回復期リハビリを開始.母,叔母,妹の4人暮らし.病前はリサイクル業で産業廃棄物運搬車を運転していた.なお,報告に際し書面にて説明し同意を得た.
【作業療法評価】
Br.stage:Ⅵ-Ⅵ-Ⅵ,表在・深部覚:正常,温痛覚:右上下肢鈍麻,Burke Lateropulsion Scale(以下BLS):2点,FACT:20/20点,立位: WideBaceで左側方傾斜し保持困難,歩行:サークル歩行器で左壁に衝突することが多い,TMT-(A/B):140秒/169秒,Wais-Ⅲ:全検査IQ55,眼:両眼とも病巣側偏移,輻輳:不可,FIM(運動/認知):67/25
【経過】
 LPに対して自覚が乏しく視覚での代償が不十分なため,足底からの感覚入力を目的にPTと共にインソールを作成した.インソールを使用することで静的立位は改善が見られたが,動的立位ではLPの影響が残存し,ADLではトイレや入浴動作で特に転倒リスクが高く,監視や介助が必要な状態であった.OTとして上記の動作に対して左手側に壁や手すりなどが来るよう環境調整を行い,病棟スタッフと共有した.結果,サークル歩行器自立,トイレ動作自立,入浴監視で可能となった.また,上記介入と並行しSTと共にOLに対してパソコンや物品などを使用した眼球運動を促す介入を行った.第60病日頃より「眼の調子が良い」という日が次第に増え,歩行時のふらつきも軽減していた.第80病日頃よりLPと共にOLも軽減した事で院内はfree hand歩行自立,入浴も環境調整なしで自立となった.しかし,屋外歩行や机上課題では,追視や物体との距離感の把握が困難であった.また,注意機能低下や病識低下等も疑われたため,注意課題を含めた歩行練習や危険カ所でのフィードバック,視覚的探索を意識した課題を実施した.最終ではOLや高次脳機能障害が改善したことで屋外歩行自立となった.OLは残存したものの,ADLには支障が無くなり第147病日に自宅退院となった.
【結果】
BLS:0点,立位:自立,歩行:屋内外free hand自立,TMT-(A/B):95秒/137秒,Wais-Ⅲ:全検査IQ68,眼:両眼とも病巣側偏移残存,輻輳:努力的だが可能,FIM(運動/認知):82/33
【考察】
 LPに関しては触覚や圧覚情報などが意識される知覚を利用すると良いとされており,症例に対しても足底のインソールが有効であったと考えられる.しかし,LPに関する介入だけではADLや歩行自立とは至らず,その要因としてOLや高次脳機能障害が影響していると考えた.OLが軽減した事で視覚からのフィードバックが行えるようになり,高次脳機能障害が改善したことで介入時のフィードバックが反映されるようになり,LP改善へつながったと思われる.多職種と協力して多方面からアプローチを行えたことで歩行やADLが向上し自宅退院することができたと考えられる.