第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-6] ポスター:脳血管疾患等 6 

2024年11月9日(土) 16:30 〜 17:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-6-17] 急性期脳卒中後片麻痺患者の上肢における感覚障害と筋出力不均衡の電気生理学的解析

水村 翔1,2, 小泉 浩平2, 大木原 徹也1, 濱口 豊太2, 高橋 秀寿3 (1.埼玉医科大学国際医療センター リハビリテーションセンター, 2.埼玉県立大学 保健医療福祉研究科 リハビリテーション学専修, 3.埼玉医科大学国際医療センター リハビリテーション科)

【序論】 脳卒中後の体性感覚障害は有症率50%を超え, 上肢機能ならびにセルフケア能力に負相関する因子とされる. 体性感覚障害は, その評価にいくつかの課題がある. 標準化された評価は患者の主観に依存しており, 意識障害や高次脳機能障害の影響から定量的捕捉に課題を有する. また, 客観的評価は時間的制約から臨床場面での実施が困難である. ヒトの関節運動は, 大脳一次運動野からの下行性運動指令が, 骨格筋へ作用することで生じる. 体性感覚障害ではフィードバック機構が損なわれ, 協調的な筋出力に不均衡をもたらす. 体性感覚障害の客観的指標として短潜時感覚誘導電位 (SSEP) がある. また, 電気生理学的な筋出力評価には表面筋電図 (sEMG) があり, 得られた波形の二乗平均平方根値から共収縮指数 (CCI) が算出される. 現在, 脳卒中後の体性感覚障害と筋出力不均衡の定量化は確立されていない. 体性感覚障害の重症度別の筋出力不均衡の変化を得ることで, リハビリテーション治療負担を均質化し, 治療法選択の一助となる.
【目的】急性期脳卒中後の体性感覚障害をSSEPにより3群に分類し, 上肢のCCIの変化は重症度ごとに異なる特徴を示すという仮説を検証すること. 倫理的配慮 (埼玉医科大学国際医療センター倫理委員会承認済:2021-008)
【方法】対象は急性期脳卒中患者81例とした. 適格基準は1) 20歳以上の脳卒中患者, 2)上肢運動麻痺がFugl−Meyer Assessment Score にて19点以上の者, 3)文章にて同意を得た者, とした. 計測・分析方法は, 適応基準を満たした対象者に, SSEPとsEMGを計測した. SSEP測定 : 筋電図・誘発電位検査装置 (日本光電 : ニューロパック X1) を用い, 正中神経領域に電気刺激を行い記録した. SSEPはTobimatsuらの報告から潜時によって正常, 遅延, 無応答の3群へ分類した. sEMG測定 : 表面筋電図計 (DELSYS Trignoシリーズ) を用い, 計測対象筋は両側の上腕二頭筋, 上腕三頭筋, 橈側手根屈筋, 橈側手根屈筋, 運動条件は両側上肢にて肘関節屈伸, 手関節掌背屈運動とし, 最大等尺性収縮を8秒間行った. sEMGは開始3秒を除く, 5秒間を解析対象とした. 筋電処理は, 各筋から得られたsEMG生波形の二乗平均平方根の値からCCIを算出した. 測定は発症後7日間のうち2日以上あけた2時点で行った. 解析方法 : 少数サンプルで層別解析を行う為にブートストラップ法を採用した. SSEPによる3群を基にsEMGデータを1000個に増幅した. 統計手法は運動条件ごとに, SSEP群とsEMG測定時期による反復測定分散分析を実施し, 交互作用を認めた際に多重比較検定を行った. 非麻痺側の変化を基準と仮定し, 非麻痺側の標準偏差を超える変化を示した関節運動を有意な変化として抽出した.
【結果】検証の結果, 全ての運動条件で交互作用を認めた. 多重比較検定の結果は, 非麻痺側の肘関節屈曲の正常群以外で有意差を認めた. 実測値と推論解析の結果で共通し, 手関節掌屈にて計測2回目にてCCIが有意に低値となった. 非麻痺側の変化量の標準偏差を超える変化を示した関節運動は遅延群の手関節掌屈のみであった. 非麻痺側では遅延群のみ2回目の計測でCCIが有意に高値を示し, 他のSSEP群と比較し特徴的な結果を示した.
【考察】当研究は脳卒中急性期を対象に, 体性感覚障害の重症度により上肢のCCIが異なる変化を示すことを予備的推論解析として示した. シミュレーション結果で仮説は支持され, その変化は麻痺側のみならず非麻痺側においても生じていることが示唆された. 急性期の脳卒中患者におけるCCIの変化と機能回復との関連についての検証は今後の課題である.