第58回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-7] ポスター:脳血管疾患等 7

Sun. Nov 10, 2024 8:30 AM - 9:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PA-7-10] 脳腫瘍患者の復職を困難にする要因の検討:ケースコントロール研究

中川 理紗子1, 後藤 直哉1, 塩田 繁人1, 山根 直哉1, 三上 幸夫2 (1.広島大学病院 診療支援部リハビリテーション部門, 2.広島大学病院 リハビリテーション科)

□はじめに
脳腫瘍患者の多くは身体機能に関わる脳機能の低下に加え,高次脳機能障害を引き起こす.また,悪性でない脳腫瘍に罹患した患者であっても平均生存期間は10年と予後不良の疾患である.これらの症状や背景は脳腫瘍患者における就労を困難にし,失業に至る可能性を高めることが明らかとなっている.しかし,脳腫瘍患者の復職を困難にする要因に関する報告は少なく,また先行研究では腫瘍の種類を限定されていることに加え,身体・認知機能,ADL等リハビリテーション治療に重点を置いた研究は乏しい.腫瘍の種類に関わらずリハビリテーション治療視点で復職を困難にする因子を検討することは,リハビリテーション治療の早期開始や介入策を提案する上で重要となる.本研究の目的は,腫瘍の種類に関わらずリハビリテーション治療視点で脳腫瘍患者の復職を困難とする要因を明らかにすることである.
□対象・方法
研究デザイン:ケースコントロール研究 対象:2017年1月1日~2022年12月31日の期間に当院脳神経外科に入院し開頭腫瘍摘出術を施行,リハビリテーション治療を実施した60歳以下の症例251名.除外基準:入院前の就労がない,死亡退院,精神疾患の既往があるもの.調査項目:年齢・性別・脳腫瘍のグレード・腫瘍の種類・開頭腫瘍摘出後療法(化学療法,放射線治療,光線力学療法)の有無・チャールソン合併症スコア・入院時と退院時のBarthel Index(以下,BI)・入院時と退院時のBrunnstrom stage・術前後の神経心理学的検査(MMSE・FAB・TMT-A/B)・リハビリテーション治療日数をカルテより後方視的に調査.統計解析:調査時までに復職していた群を復職群,復職していなかった群を未復職群とし,Shapiro-Wilk検定にて正規性を確認後, t検定またはMann-WhitneyのU検定を用いて両群間を比較.名義尺度にはχ2検定を用いた.SPSSver.27を使用,すべての有意水準は5%未満とした.本研究を行うにあたり所属施設の倫理審査委員会の承認を得て実施.
□結果
対象者は最終的に101名となり基本属性は,年齢46.3±9.7歳,男性62名.復職群は88名(87.1%)で年齢45.4±10.0歳,未復職群は23名(22.8%)で年齢49.3±8.3歳.腫瘍の種類は神経膠腫が40例と最も多く,髄膜腫,神経鞘腫,転移性の順.腫瘍のグレードはⅠが最も多く39名,Ⅳは16例.復職群,未復職群の両群間の比較では,脳腫瘍のグレード(復職群の平均Ⅱ,未復職群Ⅲ),手術後療法の有無(復職群26.1%,未復職群70.0%で後療法実施),術後MMSE(復職群の平均27点,未復職群23点),リハビリテーション治療日数(復職群の平均11.9日,未復職群25.7日)の項目で有意差を認めた.その他項目は有意差を認めなかった.
□考察
先行研究では高齢,女性,注意機能/思考の柔軟性/記憶機能の低下が復職困難な因子と報告されているが,今回の研究では腫瘍のグレードが高いこと,手術後療法,術後MMSEの得点の低さが復職を困難にする傾向があった.また,復職が困難であった例はより長期のリハビリテーション治療日数を要する傾向もみられた.脳腫瘍による身体・認知機能の低下に対し早期からリハビリテーション治療を実施し,先行研究で挙げられる重症度や治療期間,認知機能に合わせ個別化した職業リハビリテーション治療の実践が必要と考える.今回の研究の特徴は先行研究と異なり,腫瘍の種類に関わらず復職に関する因子をリハビリテーション治療視点で検討した点である.研究の限界は,神経心理学的検査の実施時期や内容が統一されていなかった点が挙げられる.今後,症例数を増やすとともに,より詳細な調査を実施し,脳腫瘍患者の復職に向けたリハビリテーション治療の充実を図りたい.