第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-7] ポスター:脳血管疾患等 7

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 ポスター会場 (大ホール)

[PA-7-11] 脳出血を呈し緊急出産後症例の作業療法介入の実践

役割の再獲得を目標に介入した回復期から4年後のインタビューより再考する

中井 琢哉1, 佐々木 秀一1, 軽部 敦子1, 小原 由貴1, 福田 倫也1,2 (1.北里大学病院 リハビリテーション部, 2.北里大学医療衛生学部)

【はじめに】
 重度脳卒中患者の自宅退院の関連要因について,年齢や認知機能,退院時FIM,同居家族の有無などが報告されているが,自宅退院後の生活状況についての報告は少ない.今回,脳出血を呈し緊急帝王切開にて出産後の症例について,回復期リハビリテーション(以下;リハビリ)病棟退院から4年後の生活状況について聞き取り調査を実施し,入院中の作業療法介入内容とその意義について再考し,以下に報告する.本報告に際し,書面にて本人・ご家族より同意を得た.
【症例紹介と作業療法介入経過】
 本症例(以下;A氏)は40代の女性で,発症時妊娠32週であった.X年Y月Z日に右MCA動脈解離による皮質下出血を発症し,緊急帝王切開後,開頭血腫除去術とZ+1日にtrapping術が施行され,Z+33日に当院付属病院の回復期リハビリ病棟へ転院した.病前は実母・夫・息子2人と同居,自動車販売会社の事務員として正規就業し,ADLは自立していた.転院時BRS:1-1-2,FMA:5/66点,重度ブローカー失語,失行を認め,FIM:38/126点(運動:24/91点,認知14/35点)であった.退院後に母親として,家事などの役割を獲得することが重要な作業であると考え,長期目標を「自宅退院し,家庭内役割を再獲得する」,中期目標を,①「セルフケアが自力で遂行できる」,②「IADL(炊事,赤ちゃんの世話,掃除,洗濯)が一部遂行できる」,③「コミュニケーション手段を獲得する」とし,ICFの心身機能・活動・参加に経時的に焦点を当て介入した.退院時BRS3-2-3,FMA:19/66点,失語による喚語困難は残存したが,LINEスタンプによる意思疎通が一部可能となり,ADLはFIM:107/126点(運動:78/91点,認知29/35点)まで改善した.IADLとして,赤ちゃんの人形を用いた模擬的なオムツ交換や着替えの練習や,片手で操作可能なピンチハンガーを作成し,洗濯物を干す動作練習,複数回の調理訓練や外泊訓練を実施し,Z+162日に自宅退院した.
【4年後の生活状況】
 日常会話や右の肘から指を動かすことは未だ難しく,失語症と右上肢遠位部運動麻痺は残存していた.A氏,夫から退院後に困ったこととして,失語症による意思疎通が難しいこと,A氏の感情のコントロールが難しいことが挙げられた.退院時より,セルフケアや階段昇降は自立して過ごされており,週に1回の通所リハ(PT/OT/ST各1時間)を現在も継続していた.調理や洗濯は主に母が実施しているが,母が不在時はA氏が実施していた.X+1.5年に,元の会社の産業医らと面接を実施した上で,障害者枠で職場復帰され,徒歩と電車を乗り継いで出社し,退勤時に第三子の保育園のお迎えの役割を担っていた.
【考察】
 聞き取り調査の結果,運動麻痺や失語症は4年経過後も残存しており,特に意思疎通が困難なことによるストレスが現在の問題点であった.職場復帰については,入院中の目標には設定していなかったが,若年でもあり障害者雇用が可能である場合があるため,障害の程度に関わらず,会社と相談した上で復帰の可否を検討することが重要である.セルフケアが自立できたこと,家事は主役割ではないが,入院時に作成した自助具を現在も使用していたこと,母としての役割を一部遂行していたことから,自宅退院に向けてセルフケアの自立や役割の再獲得に向けたIADLへの介入は有意義であったことが示唆された.