[PA-7-16] 回復期リハビリテーション病棟脳卒中患者の入院時の意欲は退院時の更衣自立と関連する
【序論/目的】
患者の意欲はリハビリテーションを円滑かつ効果的に進める上で重要な要素である.先行研究から,モチベーションは身体活動やトレーニングへの参加に影響を与え(Törnbom 2017, Signal 2016),運動機能や日常生活活動(ADL)の改善と関連する可能性が示唆されている.特に近年,Itoら(2021)は意欲の指標であるvitality index(VI)が亜急性期脳卒中患者のADL改善と関連することを示している.しかし,食事,整容,更衣など個々のADL改善に対する意欲の影響については現状では十分に検討されていない.
更衣は文化的な社会生活を送る上で重要なADLである.また更衣は種々の身体機能や認知機能が複雑に関与し,脳卒中患者にとって自立の難しいADLの一つでもある(Edmans 1990, 1991).更衣の自立と関連する運動機能については比較的多くの先行研究があり,麻痺側の粗大運動機能(Walker 1991),腹筋力(Fujita 2016),バランス(Fujita 2016)などが報告されている.一方,脳卒中患者の意欲と更衣自立の関連性について調べた報告はほとんどなく,不明な点が多い.両者の関連性を明らかにすることは,作業療法士が意欲を評価する重要性を明確化し,評価結果の適切な解釈を可能とする.本研究の目的は,脳卒中患者の意欲と更衣自立の関連性を明らかにすることである.
【方法】
本研究は後方視的観察研究である.対象は2011年4月から2017年12月の間に回復期リハビリテーション病棟に入退院した脳卒中患者で,以下の基準を満たした152名とした.本研究の取り込み基準は,初発の脳出血または脳梗塞と診断された者,一側テント上病変である者,入院時に更衣が非自立であった者とした.分析データに欠損のある者は除外した.本研究の実施にあたり,演者らの所属機関の倫理審査委員会から承認を得た.
対象者を退院時の更衣の自立可否に基づき自立群と非自立群に分類し,両群の間で入院時のVIおよび共変量となるstroke impairment assessment set(SIAS)上肢近位,腹筋力,Berg balance scale,改訂長谷川式認知症スケール,年齢,性別,麻痺側,在院日数を比較した.そして,退院時の更衣自立可否を従属変数,入院時VIを独立変数,群間比較で有意差が認められた共変量を調整変数としてロジスティック回帰分析(強制投入法)を行った.
【結果】
退院時に更衣の自立した者は65名(42.8%),非自立であった者は87名(57.2%)であった.群間比較の結果,入院時のVI,SIAS上肢近位,腹筋力,Berg balance scale,改訂長谷川式認知症スケール,年齢,麻痺側において有意差が認められた.ロジスティック回帰分析では,入院時VIは共変量を調整後も退院時の更衣自立と有意に関連した(オッズ比1.7,95%CI 1.2-2.3,p<0.01).
【考察】
本研究から回復期リハビリテーション病棟の脳卒中患者においてVIを用いて評価された入院時意欲が退院時の更衣の自立可否と関連することが示唆された.本研究結果は,作業療法士が予後予測を行う際にVI得点を解釈するうえで有用な知見になると考えられる.一方で,本研究は観察研究であるため,意欲と更衣自立の因果関係を示したわけではない.そのため,対象者の意欲向上が更衣自立の促進につながるか否かは今後のさらなる検討が必要である.
患者の意欲はリハビリテーションを円滑かつ効果的に進める上で重要な要素である.先行研究から,モチベーションは身体活動やトレーニングへの参加に影響を与え(Törnbom 2017, Signal 2016),運動機能や日常生活活動(ADL)の改善と関連する可能性が示唆されている.特に近年,Itoら(2021)は意欲の指標であるvitality index(VI)が亜急性期脳卒中患者のADL改善と関連することを示している.しかし,食事,整容,更衣など個々のADL改善に対する意欲の影響については現状では十分に検討されていない.
更衣は文化的な社会生活を送る上で重要なADLである.また更衣は種々の身体機能や認知機能が複雑に関与し,脳卒中患者にとって自立の難しいADLの一つでもある(Edmans 1990, 1991).更衣の自立と関連する運動機能については比較的多くの先行研究があり,麻痺側の粗大運動機能(Walker 1991),腹筋力(Fujita 2016),バランス(Fujita 2016)などが報告されている.一方,脳卒中患者の意欲と更衣自立の関連性について調べた報告はほとんどなく,不明な点が多い.両者の関連性を明らかにすることは,作業療法士が意欲を評価する重要性を明確化し,評価結果の適切な解釈を可能とする.本研究の目的は,脳卒中患者の意欲と更衣自立の関連性を明らかにすることである.
【方法】
本研究は後方視的観察研究である.対象は2011年4月から2017年12月の間に回復期リハビリテーション病棟に入退院した脳卒中患者で,以下の基準を満たした152名とした.本研究の取り込み基準は,初発の脳出血または脳梗塞と診断された者,一側テント上病変である者,入院時に更衣が非自立であった者とした.分析データに欠損のある者は除外した.本研究の実施にあたり,演者らの所属機関の倫理審査委員会から承認を得た.
対象者を退院時の更衣の自立可否に基づき自立群と非自立群に分類し,両群の間で入院時のVIおよび共変量となるstroke impairment assessment set(SIAS)上肢近位,腹筋力,Berg balance scale,改訂長谷川式認知症スケール,年齢,性別,麻痺側,在院日数を比較した.そして,退院時の更衣自立可否を従属変数,入院時VIを独立変数,群間比較で有意差が認められた共変量を調整変数としてロジスティック回帰分析(強制投入法)を行った.
【結果】
退院時に更衣の自立した者は65名(42.8%),非自立であった者は87名(57.2%)であった.群間比較の結果,入院時のVI,SIAS上肢近位,腹筋力,Berg balance scale,改訂長谷川式認知症スケール,年齢,麻痺側において有意差が認められた.ロジスティック回帰分析では,入院時VIは共変量を調整後も退院時の更衣自立と有意に関連した(オッズ比1.7,95%CI 1.2-2.3,p<0.01).
【考察】
本研究から回復期リハビリテーション病棟の脳卒中患者においてVIを用いて評価された入院時意欲が退院時の更衣の自立可否と関連することが示唆された.本研究結果は,作業療法士が予後予測を行う際にVI得点を解釈するうえで有用な知見になると考えられる.一方で,本研究は観察研究であるため,意欲と更衣自立の因果関係を示したわけではない.そのため,対象者の意欲向上が更衣自立の促進につながるか否かは今後のさらなる検討が必要である.