[PA-7-19] 介入困難な脳卒中患者に対し心理的安定・作業活動の導入により身体機能の向上を認めた一例
【初めに】 Bandura(1997)は,「達成の為に一連の行動を計画し実行する能力に対する信念」を自己効力感と定義し,人は課題遂行時に自身の可能性を認識する事が出来ると述べている.しかしBoakeら(1995)は,障害を負った当事者は自らの認知障害や問題を認識する事が難しいと述べている.今回脳出血を発症し介入拒否を呈したA氏を担当し,心理面の安定・作業活動を通じて介入拒否の消失,身体機能の改善が図れた為以下に報告する.対象者に対し内容を説明し発表に対する同意を得た.
【症例】 A氏は脳幹出血左片麻痺を呈した80代女性.利き手は右.既往にX-12年脳梗塞右片麻痺発症.病前ADLは自立.在宅復帰の為リハビリ目的で当院に転院.
【初回作業療法評価】 上肢機能は両上肢共にBr.stageⅤ-Ⅳ-Ⅴ.FMAは左上肢116/126点.右は手指関節部の圧痛により実施困難.下肢機能は失調症状を呈し,BBS36/56点.高次脳機能面はMMSE-J20/30点,TMT-J part A)異常(276秒),part B)実施困難.HOPEは「早く自由に歩きたい」.評価中は周囲を見回し落ち着かない様子を認めた.ADL動作は,FIM運動項目42/91点,認知項目20/35点の計62/126点.移動は車椅子.転院初日危険行動を認め抑制の使用を開始.食事,排泄は軽介助.更衣や入浴動作は最大介助を要した.
【経過】 介入前期は本人より抑制から解放される希望が強く介入拒否を認めた.合意目標を決められる状態ではない為,抑制からの解放を目的に機能改善,職種間での情報共有を図った結果,抑制の使用は無くなり移動が自立.さらに落ち着いて話す事ができ,リハビリ拒否は消失した. 介入中期は,心理面の安定から再度面接を実施すると,「少しでも使える手になりたい」と希望を聴取.右上肢の参加はMAL(AOU4・QOM3.8).機能評価や徒手的な介入は拒否があった為,職業の話題を軸に作業活動を提供する方針へ変更.服飾デザイナーをしていた過去から色に対する良い印象があった事から塗り絵を提供するが色鉛筆を把持すると疼痛を訴え,左上肢の使用も困難であった.作業難易度は高いがセラピストと共同で作成する事ができる貼り絵の導入により,最初は色選びやちぎる動作を役割とし,貼る工程はセラピストが実施.徐々に作業活動への受け入れも良好となり,作業継続時間の延長と活動に対する積極性を認めた.介入後期では色鉛筆での塗り絵へ活動を移行.塗り絵に対する拒否は消失し,完成品について上手くできた点を担当に伝える様子や,他患へ作品を紹介する様子を認めた.身体の内観は「少し動かしづらいけど痛くなく動く」と話し,ADL動作の中での参加も増加した.
【最終評価】 両上肢B.stageⅥ-Ⅴ-Ⅴ.FMA左上肢122/126点.握力は左右)14.0㎏,MAL右上肢(AOU4.8・QOM4.9).BBS51/56点.TMTーJ partA)異常(131秒)partB)異常(到達点⇒き).FIM運動88/91点,認知27/35点の計115/126点まで向上を認めた.
【考察】 山根(2019)は作業活動に伴う効用として,筋骨格・可動域の維持改善や自己能力の現実検討に効果があると述べている事から,本症例は作業活動により身体機能の向上を得る事ができたと考える.症例は抑制の使用により安全の要求を満たせず介入拒否を生じていた.リハビリに向かう前の心理面に配慮する事で患者と共に問題解決に取り組む事ができ,ラポール形成や介入の効果を最大限生かせる事に繋がったと推察する.今回の症例を経て,効果的な作業活動の提供には,まず作業に向かう精神状態であるか判断する必要があると学ぶ事ができた.
【症例】 A氏は脳幹出血左片麻痺を呈した80代女性.利き手は右.既往にX-12年脳梗塞右片麻痺発症.病前ADLは自立.在宅復帰の為リハビリ目的で当院に転院.
【初回作業療法評価】 上肢機能は両上肢共にBr.stageⅤ-Ⅳ-Ⅴ.FMAは左上肢116/126点.右は手指関節部の圧痛により実施困難.下肢機能は失調症状を呈し,BBS36/56点.高次脳機能面はMMSE-J20/30点,TMT-J part A)異常(276秒),part B)実施困難.HOPEは「早く自由に歩きたい」.評価中は周囲を見回し落ち着かない様子を認めた.ADL動作は,FIM運動項目42/91点,認知項目20/35点の計62/126点.移動は車椅子.転院初日危険行動を認め抑制の使用を開始.食事,排泄は軽介助.更衣や入浴動作は最大介助を要した.
【経過】 介入前期は本人より抑制から解放される希望が強く介入拒否を認めた.合意目標を決められる状態ではない為,抑制からの解放を目的に機能改善,職種間での情報共有を図った結果,抑制の使用は無くなり移動が自立.さらに落ち着いて話す事ができ,リハビリ拒否は消失した. 介入中期は,心理面の安定から再度面接を実施すると,「少しでも使える手になりたい」と希望を聴取.右上肢の参加はMAL(AOU4・QOM3.8).機能評価や徒手的な介入は拒否があった為,職業の話題を軸に作業活動を提供する方針へ変更.服飾デザイナーをしていた過去から色に対する良い印象があった事から塗り絵を提供するが色鉛筆を把持すると疼痛を訴え,左上肢の使用も困難であった.作業難易度は高いがセラピストと共同で作成する事ができる貼り絵の導入により,最初は色選びやちぎる動作を役割とし,貼る工程はセラピストが実施.徐々に作業活動への受け入れも良好となり,作業継続時間の延長と活動に対する積極性を認めた.介入後期では色鉛筆での塗り絵へ活動を移行.塗り絵に対する拒否は消失し,完成品について上手くできた点を担当に伝える様子や,他患へ作品を紹介する様子を認めた.身体の内観は「少し動かしづらいけど痛くなく動く」と話し,ADL動作の中での参加も増加した.
【最終評価】 両上肢B.stageⅥ-Ⅴ-Ⅴ.FMA左上肢122/126点.握力は左右)14.0㎏,MAL右上肢(AOU4.8・QOM4.9).BBS51/56点.TMTーJ partA)異常(131秒)partB)異常(到達点⇒き).FIM運動88/91点,認知27/35点の計115/126点まで向上を認めた.
【考察】 山根(2019)は作業活動に伴う効用として,筋骨格・可動域の維持改善や自己能力の現実検討に効果があると述べている事から,本症例は作業活動により身体機能の向上を得る事ができたと考える.症例は抑制の使用により安全の要求を満たせず介入拒否を生じていた.リハビリに向かう前の心理面に配慮する事で患者と共に問題解決に取り組む事ができ,ラポール形成や介入の効果を最大限生かせる事に繋がったと推察する.今回の症例を経て,効果的な作業活動の提供には,まず作業に向かう精神状態であるか判断する必要があると学ぶ事ができた.