[PA-9-10] 急性期脳卒中後,半側空間無視,病態失認に起因した麻痺手の使用低下に対してTransfer packageを使用した一例
【はじめに】日常生活活動(以下ADL)における麻痺手の使用を促すことは,運動障害だけでなく半側空間無視,身体等の認識に関連する半側無視に重要であると言われている.
今回半側空間無視,病態失認によりADLで麻痺手の使用行動低下を認めた症例(以下A氏)に対してTransfer package(以下TP)を使用し,麻痺手の使用頻度の増加を目指した結果,運動麻痺だけでなく,半側空間無視,病態失認に対しても改善に繋がった為報告する.
【事例紹介】70歳代の男性,妻と二人暮らし,ADL自立,毎日2時間散歩を行っていた.今回左上下肢の動かしにくさを自覚し救急搬送.MRIで右頭頂葉~後頭葉,一部中心前回を含む皮質中心な広範囲にDWI高信号,一部出血性変化を認め同日入院加療となり,3病日目より作業療法開始した.
【経過】初期評価はBr.stage左上肢Ⅲ,左手指Ⅳ,左下肢Ⅴ,Fugl-Meyer-Assessment(以下FMA)上肢運動項目は26/66点であった.上肢機能訓練を中心に行い,10病日目にはBr.stage上肢Ⅳ,手指Ⅴまで改善した.しかし,基本動作及びADL全般に麻痺手の忘却,不使用は残存し,A氏は「左手は使っている」と無認知であった.BIT行動性無視検査日本版(以下BIT)の通常検査は25/146点,Catherine Bergego Scale(以下CBS)は観察評価24点,自己評価10点であった.ADLで麻痺手の使用頻度増加を目的に12病日目にTPを導入した.
【介入方法】TPは麻痺手行動に関する契約, モニタリングの促進,問題解決の3つのコンポーネントで形成されている.麻痺手行動に関する契約は,現在の麻痺手の能力で実現可能な目標を設定し同意を得た.モニタリングの促進はMotor Activity Log (以下MAL)の動作項目に加えて同意目標に関しても,使用頻度と動作の質を介入時に毎回聴取した. A氏はADL場面での麻痺手の使用状況と自己評価が乖離していた為,訓練室で動作確認を行い,評価者と指標を統一した.問題解決は自己評価とADL場面で撮影した動画を確認しながら,麻痺手を使わなかった理由をコメントしてもらい,どのような動作なら麻痺手を使用できるかA氏と検討し,動作指導を行った.
【結果】転院前日の22病日目に最終評価を実施した.Br.stage左上肢Ⅳ〜Ⅴ,左手指Ⅴ,FMA上肢運動項目は47/66点まで改善を認めた.高次脳機能に関してもBIT通常検査は37/146点,CBSは観察評価11点,自己評価10点まで改善を認めた. MAL はAOU0.3 → 1.6,QOM0.5.→ 1.6と変化を示し,「両手でお皿を取って左手で持っている」と気づきの変化がみられた.また,「安心して持てる物は左手で取るように心がけている」と自己モニターができる機会が増え,能動的な麻痺手の使用がみられ始めた.
【考察】MorrisらはTPを通して対象者の行動を変容するために必要な要素として,自己効力感と認知された障害を挙げており,これらは日常の活動におけるアプローチ及びその結果とパフォーマンスに対するフィードバックから培われると報告している.今回TP の使用により,ADLでどのようにしたら麻痺手を使用できるかを一緒に検討し,使用行動を介入時にフィードバック行ったことが,障害の認識を促し病態失認の改善に寄与したと考える.また,これらの成功体験が自己効力感を高め,能動的な麻痺手の使用が増加したと考える.ADLで麻痺手の使用が増えることは,目と手の協応から左空間に注意を促す頻度が増加し,半側空間無視の改善に寄与したと推察する.急性期は症状変動が起こりやすく,自然回復の影響を排除するには十分ではないため,今後症例数を増やして更に検討していきたい.
【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき,患者及び家族に対して十分な説明を行い,書面による同意を得た.
今回半側空間無視,病態失認によりADLで麻痺手の使用行動低下を認めた症例(以下A氏)に対してTransfer package(以下TP)を使用し,麻痺手の使用頻度の増加を目指した結果,運動麻痺だけでなく,半側空間無視,病態失認に対しても改善に繋がった為報告する.
【事例紹介】70歳代の男性,妻と二人暮らし,ADL自立,毎日2時間散歩を行っていた.今回左上下肢の動かしにくさを自覚し救急搬送.MRIで右頭頂葉~後頭葉,一部中心前回を含む皮質中心な広範囲にDWI高信号,一部出血性変化を認め同日入院加療となり,3病日目より作業療法開始した.
【経過】初期評価はBr.stage左上肢Ⅲ,左手指Ⅳ,左下肢Ⅴ,Fugl-Meyer-Assessment(以下FMA)上肢運動項目は26/66点であった.上肢機能訓練を中心に行い,10病日目にはBr.stage上肢Ⅳ,手指Ⅴまで改善した.しかし,基本動作及びADL全般に麻痺手の忘却,不使用は残存し,A氏は「左手は使っている」と無認知であった.BIT行動性無視検査日本版(以下BIT)の通常検査は25/146点,Catherine Bergego Scale(以下CBS)は観察評価24点,自己評価10点であった.ADLで麻痺手の使用頻度増加を目的に12病日目にTPを導入した.
【介入方法】TPは麻痺手行動に関する契約, モニタリングの促進,問題解決の3つのコンポーネントで形成されている.麻痺手行動に関する契約は,現在の麻痺手の能力で実現可能な目標を設定し同意を得た.モニタリングの促進はMotor Activity Log (以下MAL)の動作項目に加えて同意目標に関しても,使用頻度と動作の質を介入時に毎回聴取した. A氏はADL場面での麻痺手の使用状況と自己評価が乖離していた為,訓練室で動作確認を行い,評価者と指標を統一した.問題解決は自己評価とADL場面で撮影した動画を確認しながら,麻痺手を使わなかった理由をコメントしてもらい,どのような動作なら麻痺手を使用できるかA氏と検討し,動作指導を行った.
【結果】転院前日の22病日目に最終評価を実施した.Br.stage左上肢Ⅳ〜Ⅴ,左手指Ⅴ,FMA上肢運動項目は47/66点まで改善を認めた.高次脳機能に関してもBIT通常検査は37/146点,CBSは観察評価11点,自己評価10点まで改善を認めた. MAL はAOU0.3 → 1.6,QOM0.5.→ 1.6と変化を示し,「両手でお皿を取って左手で持っている」と気づきの変化がみられた.また,「安心して持てる物は左手で取るように心がけている」と自己モニターができる機会が増え,能動的な麻痺手の使用がみられ始めた.
【考察】MorrisらはTPを通して対象者の行動を変容するために必要な要素として,自己効力感と認知された障害を挙げており,これらは日常の活動におけるアプローチ及びその結果とパフォーマンスに対するフィードバックから培われると報告している.今回TP の使用により,ADLでどのようにしたら麻痺手を使用できるかを一緒に検討し,使用行動を介入時にフィードバック行ったことが,障害の認識を促し病態失認の改善に寄与したと考える.また,これらの成功体験が自己効力感を高め,能動的な麻痺手の使用が増加したと考える.ADLで麻痺手の使用が増えることは,目と手の協応から左空間に注意を促す頻度が増加し,半側空間無視の改善に寄与したと推察する.急性期は症状変動が起こりやすく,自然回復の影響を排除するには十分ではないため,今後症例数を増やして更に検討していきたい.
【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき,患者及び家族に対して十分な説明を行い,書面による同意を得た.