第58回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-9] ポスター:脳血管疾患等 9

Sun. Nov 10, 2024 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (大ホール)

[PA-9-11] 脳卒中後重度左片麻痺に対する病態失認を呈した対象者への目標設定支援ツールを用いた作業療法の実践

青野 智仁1, 土谷 里織1, 温井 啓太1,2 (1.医療法人 脳神経研究センター 新さっぽろ脳神経外科病院 リハビリテーション科, 2.札幌医科大学保険医療学部作業療法学第一講座)

【はじめに】近年,リハビリテーションの目標設定において,Shared Decision Making(以下,SDM)が推奨されている.作業選択意志決定支援ソフト(ADOC)は,対象者と支援者が協同的に目標設定を行うためのツールであり,様々な疾患や病期の対象者に用いられている(川口ら2023)が,病態失認を呈している対象者への報告例は少ない.今回,脳卒中後に重度左片麻痺に対する病態失認を呈した対象者に対し,SDMを意識しながらADOCや作業選択意思決定支援ソフト上肢版(ADOC-H)を用いて,家庭内の役割を再獲得した事例を経験した.発表について本人に口頭および書面にて説明して同意を得た.
【事例紹介】40歳代,男性,右利き.妻と子ども二人との4人暮らしで,発症前は営業や会場設営の仕事をしており,休日には趣味や家事を行っていた.右被殻出血と診断され当院に入院し,保存療法によるリハビリテーションが開始となった.入院直後は,JCS10,発熱が持続してリハビリテーションが進みにくい状態であった.全身状態が落ち着き集中的なリハビリテーションが行えるようになったため,第22病日頃に評価を行った.
【作業療法評価】JCS1,左片麻痺を認め,Fugl-Meyer Assessment(以下,FMA)は4点であり,Motor Activity Log(以下,MAL)ではAmount of Use(以下,AOU)とQuality of Movement(以下,QOM)が共に0点であった.認知機能は良好だが,左半側空間無視を認めた.片麻痺に対する病態失認を認め,3.0/10点(Feinbergら 2000)であり,片麻痺を否認することはなかったが,「一人でトイレに行ける」と述べ,介助が必要にも関わらず移乗を試みて転倒したこともあった.FIMは48点だった.
【介入】意識障害等の影響により,リハビリテーションに主体的に参加する様子は見られなかった.作業療法士(以下,OT)は,本例の主体的な作業療法への参加を促すためにADOCを用いて目標設定を行った.現在の心身機能とかけ離れた目標を立てる本例に対して,OTが優先順位を示し,基本動作やADL向上の必要性について共有した.介入後期にはADLが修正自立となった.しかし,上肢機能の改善や社会復帰を希望しながらも,病棟生活では麻痺手の不使用や低活動が目立った.そこで,麻痺手の使用を促進するためにADOC-Hを用いて目標設定を行った.本例が選択した目標はやや課題の難易度が高かったため,まずは生活場面で麻痺手が使用できる作業を確認した.共有した課題を実践し,麻痺手の使用状況を一緒に確認することで使用機会が増加し,「両手で顔を洗いたい」という具体的な要望も聞かれるようになった.
【結果】FMA46点,MALのAOU3.21点,QOM3.00点,STEF27点と,麻痺側上肢機能が改善し,麻痺手の使用機会も増加した.また,病態失認の改善も認め0/10点(Feinbergら)となった.FIMは121点となり,自宅退院後の簡単な家事活動も一部獲得し,入院後186日目に自宅退院した.
【考察】本例は,病態失認を呈しており,ADOCを用いても高い目標を選択する傾向があった.OTが重要と思われる作業を提案して,目標を調整していく関わりを日々継続していくことで,ADLの自立度向上や家庭内役割の再獲得につながった.本例の場合,病態失認を認めていたが,片麻痺を否認する程ではなくリハビリにも意欲的に取り組んでいたことも改善につながった要因である可能性はある.それでも,友利ら(2012)は,ADOCの使用方法として,対象者が中心となり目標を選択できない場合には,支援者が選んだ作業を目標として積極的に提案し,合意を得ることを推奨している.病態失認を呈した事例においても,目標設定支援ツールを効果的に使用することができる可能性が示唆された.