[PA-9-19] 脳卒中後の麻痺手に対するモニタリングと具体的な目標設定がQOLの向上に至った一例
【はじめに】 脳卒中後の麻痺手に対する目標設定とモニタリングを伴う使用行動の改善は,QOLの向上に影響を与えることが報告されているが,高次脳機能障害を合併した対象者に対する目標設定やQOL評価の報告は少ない.
【報告の目的】 今回,脳卒中後に上肢麻痺と高次脳機能障害を呈した事例に対して,(i)5W1H(Why,Who,What,When,Where,How)を使用した目標の共有,(ii)目標に関する練習,(iii)実生活における麻痺手使用場面の振り返り,を行った結果,麻痺手の使用行動の改善とQOLの向上に至った経過について報告する.尚,発表に際し事例から同意を得た.
【事例紹介】 50歳代,右利きの男性.診断名は,右頭頂側頭葉皮質下出血.頭部CTにて深部白質・皮質下白質に血腫を認めた.開頭血腫除去術,頭蓋形成術を施行し,54病日目に当院回復期病棟に転院した.生活歴は,歯科技工士で,妻と2人暮らし,病前ADLは自立していた.
【転院時作業療法評価】 意識はGCSE4V4M6.運動麻痺はBRS(左)III−IV−IV,Fugl-Meyer Assessment 上肢運動項目(以下,FMA−UE)17点であった.感覚は表在・深部とも中等度鈍麻であった.Motor activity Log(以下,MAL)のAmount of Use(以下,AOU)は,1.5点,Quality of Movement(以下,QOM)は,1.0点であった.高次脳機能検査では,MMSE27点,TMT−JはPart A,PartBともに混乱のため中断,BIT行動性無視検査 日本版(以下,BIT)の通常検査は合計83/146点,三宅式記銘力は有関係対語試験7-9-10,無関係対語試験は混乱のため中断であった.QOL評価は,Stroke Specific QOL Scale(以下,SS−QOL)にて仕事3点,家庭内役割1点で,復職と家庭内役割を果たすことに困難さを感じていた.自宅での役割は,“洗濯・料理”であった.FIMは30点(運動項目17点,認知項目13点)で,移動は車椅子介助を要した.今後の目標については「どうしていいのかわからない」であった.
【作業療法介入方針】 頭部CTより運動麻痺は錐体路の圧迫所見であること,麻痺手使用頻度と感覚障害の有無に有意差は認めない(佐々木ら,2019)ことから,今後麻痺手は改善し,目標の設定と達成によりQOLは向上すると仮説をたてた.具体的には(i)5W1Hで目標を明確化する(ii)目標に関する練習をする(iii)実生活で麻痺手を使用する,とし日々振り返りを行った.
【目標設定と介入経過の一例】 125病日~:面接にて目標を,「妻が助かると思うから,自宅で,一人で,洗濯ばさみを麻痺手でつまんで,洗濯物が干せる」とし,つまみ動作やリーチ動作を繰り返し練習した.実生活では,ジャムを開封するなど必ず麻痺手で行う活動を設定し,振り返りを行った.
【退院時(210病日)作業療法評価】 BRSはV−V−V,FMA−UEは52点,MALはAOU3.6点,QOM3.9点となり麻痺手の運動機能と使用行動が改善した.SS−QOLは仕事3点,家庭内役割3点となり,家庭内役割に加点がみられた.FIMは104点(運動項目76点,認知項目28点)となりフリーハンド歩行にて自宅に退院した.高次脳機能はTMT−JのPart Aは407秒,PartBは中断,BIT通常検査は87/146点,三宅式記銘力検査は有関係対語試験7-9-10,無関係対語試験は中断で大きな変化はなかった.
【考察】 高次脳機能障害者の意思決定には質問の明確化に配慮する必要がある(白山ら,2021).今回,目標を5W1Hの枠組みで明確化し,段階的な達成がQOLの向上に奏功したと考える.また,高次脳機能障害のリハビリテーションは,動作のルーチン化が動作エラーを減少させる(Park NW ,et al,2001).繰り返しの練習とフィードバックが,日常生活の麻痺手使用に繋がったと考える.
【報告の目的】 今回,脳卒中後に上肢麻痺と高次脳機能障害を呈した事例に対して,(i)5W1H(Why,Who,What,When,Where,How)を使用した目標の共有,(ii)目標に関する練習,(iii)実生活における麻痺手使用場面の振り返り,を行った結果,麻痺手の使用行動の改善とQOLの向上に至った経過について報告する.尚,発表に際し事例から同意を得た.
【事例紹介】 50歳代,右利きの男性.診断名は,右頭頂側頭葉皮質下出血.頭部CTにて深部白質・皮質下白質に血腫を認めた.開頭血腫除去術,頭蓋形成術を施行し,54病日目に当院回復期病棟に転院した.生活歴は,歯科技工士で,妻と2人暮らし,病前ADLは自立していた.
【転院時作業療法評価】 意識はGCSE4V4M6.運動麻痺はBRS(左)III−IV−IV,Fugl-Meyer Assessment 上肢運動項目(以下,FMA−UE)17点であった.感覚は表在・深部とも中等度鈍麻であった.Motor activity Log(以下,MAL)のAmount of Use(以下,AOU)は,1.5点,Quality of Movement(以下,QOM)は,1.0点であった.高次脳機能検査では,MMSE27点,TMT−JはPart A,PartBともに混乱のため中断,BIT行動性無視検査 日本版(以下,BIT)の通常検査は合計83/146点,三宅式記銘力は有関係対語試験7-9-10,無関係対語試験は混乱のため中断であった.QOL評価は,Stroke Specific QOL Scale(以下,SS−QOL)にて仕事3点,家庭内役割1点で,復職と家庭内役割を果たすことに困難さを感じていた.自宅での役割は,“洗濯・料理”であった.FIMは30点(運動項目17点,認知項目13点)で,移動は車椅子介助を要した.今後の目標については「どうしていいのかわからない」であった.
【作業療法介入方針】 頭部CTより運動麻痺は錐体路の圧迫所見であること,麻痺手使用頻度と感覚障害の有無に有意差は認めない(佐々木ら,2019)ことから,今後麻痺手は改善し,目標の設定と達成によりQOLは向上すると仮説をたてた.具体的には(i)5W1Hで目標を明確化する(ii)目標に関する練習をする(iii)実生活で麻痺手を使用する,とし日々振り返りを行った.
【目標設定と介入経過の一例】 125病日~:面接にて目標を,「妻が助かると思うから,自宅で,一人で,洗濯ばさみを麻痺手でつまんで,洗濯物が干せる」とし,つまみ動作やリーチ動作を繰り返し練習した.実生活では,ジャムを開封するなど必ず麻痺手で行う活動を設定し,振り返りを行った.
【退院時(210病日)作業療法評価】 BRSはV−V−V,FMA−UEは52点,MALはAOU3.6点,QOM3.9点となり麻痺手の運動機能と使用行動が改善した.SS−QOLは仕事3点,家庭内役割3点となり,家庭内役割に加点がみられた.FIMは104点(運動項目76点,認知項目28点)となりフリーハンド歩行にて自宅に退院した.高次脳機能はTMT−JのPart Aは407秒,PartBは中断,BIT通常検査は87/146点,三宅式記銘力検査は有関係対語試験7-9-10,無関係対語試験は中断で大きな変化はなかった.
【考察】 高次脳機能障害者の意思決定には質問の明確化に配慮する必要がある(白山ら,2021).今回,目標を5W1Hの枠組みで明確化し,段階的な達成がQOLの向上に奏功したと考える.また,高次脳機能障害のリハビリテーションは,動作のルーチン化が動作エラーを減少させる(Park NW ,et al,2001).繰り返しの練習とフィードバックが,日常生活の麻痺手使用に繋がったと考える.