[PA-9-4] 脳損傷後に運転補助装置が必要な事例に対する運転支援の課題
Michonのモデルに基づいた検討
【はじめに】脳損傷者が社会参加を達成する手段として自動車運転の再開は重要である.一方で,脳損傷後の身体麻痺等により運転様式の変更を余儀なくされ,円滑な運転操作に支障を来たす場合は少なくない.今回,Michonの運転行動の概念モデルを参考に運転操作訓練を実施した結果,路上評価後に条件付きで運転再開に至った事例を経験した.脳損傷後に運転様式の変更が生じた事例では,十分な運転技能の習熟後に運転支援を行う必要性について考察を踏まえて報告を行う.尚,報告に関し書面にて説明し本人より署名による同意を得ている.
【事例情報】50歳代男性.特発性脳出血(右側頭頭頂葉領域)後,左片麻痺,重度感覚障害,高次脳機能障害.163病日目に運転評価を開始.院内独歩にてADL自立.FMA -UE:41点.左上下肢表在深部感覚中重度鈍麻.KBDT:IQ108.TMT日本版:A43秒,B76秒,ROCF:模写36点,即時24点.J-SDSA:合格予測式17.196>不合格予測式12.764.運転目的はAT車で10分ほど買い物等の運転.事故歴等なし.周囲から速度超過傾向の指摘あり.HONDAセーフティナビ:単純反応検査と選択反応検査は年齢平均と比較し注意判定.危険予測体験は認知面に問題を認めないが,低速で緩慢な運転傾向,両手ハンドル操作は拙劣さ強く未習熟.ハンドル操作の拙劣さやアクセルブレーキワークとの不一致,反応の遅延やムラに起因した知覚運動協応技能の低下を認める結果となった.
【経過および介入】Tactical Level,Operational Levelの運転能力の獲得に向け院内実車コースにてAT車を用いた実車訓練を実施した.
実車訓練1期Operational Level(40分×4回)目的:ハンドル操作等の操作習熟支援.両手ハンドル操作とハンドルノブ使用の走行の差を体験.実用性について検討し,習熟訓練を実施した.
実車訓練2期Tactical Level(60分×3回)目的:反応の遅延やムラ,ハンドル操作とペダルワークの協調性の向上.1期にて操作面の習熟を認めたが,知覚運動協応の観点から左折等の大回り傾向・直進後の左折など判断のタイミングにムラや遅れを認めた.介入:知覚運動協応技能の低下が生じやすい左折等では適切な速度まで減速して左折すること,速度超過傾向は運転様式の変更に合わせて速度調整しながら走行するなど運転技能の向上を図った.結果,院内実車コースでは,運転行動上の問題は確認されなくなった.
自動車教習所評価(50分×1回)教官による構内・路上教習を実施した.概ね安定した運転が可能であったが,後半では速度超過や十分に減速せず右左折し操作に手間取る様子が散見された.
【結果】教習所の教官から再開可能レベルの運転技能を有しているとコメントがあった.路上評価の後半で,速度超過傾向や反応・判断の遅延が確認されたため,以上の結果から初期は家族同乗にて運転再開可の判断が主治医よりなされた.その後,家族面談にて本人家族に対し路上評価の動画を解説.運転再開後の課題と対応を共有した.
【考察】本事例は実車訓練の初期において情報処理の低下に加えて運転様式の変更に伴う知覚運動協応技能の低下によるものと思われる運転行動エラーが確認された.運転訓練により一定の運転技能を獲得したが,路上評価等において反応速度の遅延等の影響があり,家族同乗での運転再開が妥当であった.脳損傷後の運転支援において運転様式の変更が生じた際は,運転行動の概念モデルにおけるTactical Level,Operational Levelの知覚運動協応技能に影響が生じる可能性を考慮する必要がある.また,自動車教習所等と連携し,運転技能の習熟の上で運転評価等の支援を行う視点を持つ必要性が示唆された.
【事例情報】50歳代男性.特発性脳出血(右側頭頭頂葉領域)後,左片麻痺,重度感覚障害,高次脳機能障害.163病日目に運転評価を開始.院内独歩にてADL自立.FMA -UE:41点.左上下肢表在深部感覚中重度鈍麻.KBDT:IQ108.TMT日本版:A43秒,B76秒,ROCF:模写36点,即時24点.J-SDSA:合格予測式17.196>不合格予測式12.764.運転目的はAT車で10分ほど買い物等の運転.事故歴等なし.周囲から速度超過傾向の指摘あり.HONDAセーフティナビ:単純反応検査と選択反応検査は年齢平均と比較し注意判定.危険予測体験は認知面に問題を認めないが,低速で緩慢な運転傾向,両手ハンドル操作は拙劣さ強く未習熟.ハンドル操作の拙劣さやアクセルブレーキワークとの不一致,反応の遅延やムラに起因した知覚運動協応技能の低下を認める結果となった.
【経過および介入】Tactical Level,Operational Levelの運転能力の獲得に向け院内実車コースにてAT車を用いた実車訓練を実施した.
実車訓練1期Operational Level(40分×4回)目的:ハンドル操作等の操作習熟支援.両手ハンドル操作とハンドルノブ使用の走行の差を体験.実用性について検討し,習熟訓練を実施した.
実車訓練2期Tactical Level(60分×3回)目的:反応の遅延やムラ,ハンドル操作とペダルワークの協調性の向上.1期にて操作面の習熟を認めたが,知覚運動協応の観点から左折等の大回り傾向・直進後の左折など判断のタイミングにムラや遅れを認めた.介入:知覚運動協応技能の低下が生じやすい左折等では適切な速度まで減速して左折すること,速度超過傾向は運転様式の変更に合わせて速度調整しながら走行するなど運転技能の向上を図った.結果,院内実車コースでは,運転行動上の問題は確認されなくなった.
自動車教習所評価(50分×1回)教官による構内・路上教習を実施した.概ね安定した運転が可能であったが,後半では速度超過や十分に減速せず右左折し操作に手間取る様子が散見された.
【結果】教習所の教官から再開可能レベルの運転技能を有しているとコメントがあった.路上評価の後半で,速度超過傾向や反応・判断の遅延が確認されたため,以上の結果から初期は家族同乗にて運転再開可の判断が主治医よりなされた.その後,家族面談にて本人家族に対し路上評価の動画を解説.運転再開後の課題と対応を共有した.
【考察】本事例は実車訓練の初期において情報処理の低下に加えて運転様式の変更に伴う知覚運動協応技能の低下によるものと思われる運転行動エラーが確認された.運転訓練により一定の運転技能を獲得したが,路上評価等において反応速度の遅延等の影響があり,家族同乗での運転再開が妥当であった.脳損傷後の運転支援において運転様式の変更が生じた際は,運転行動の概念モデルにおけるTactical Level,Operational Levelの知覚運動協応技能に影響が生じる可能性を考慮する必要がある.また,自動車教習所等と連携し,運転技能の習熟の上で運転評価等の支援を行う視点を持つ必要性が示唆された.