[PA-9-5] 脳血管障害患者の健側上肢の把握動作に影響する患側上肢の身体機能
第一報
【序論】把握動作は,手指を事前に対象物の距離やサイズなどの三次元情報に合わせて形態変化(Pre-shaping)させることで効率的に制御される.この制御は視覚に依存しているが,把握動作時に事前に反対側上肢で物体を把持した場合,反対側上肢の体性感覚から対象物の三次元情報を知覚し,把握動作の運動制御に寄与すると報告されている.しかし,この効果は,筆者の先行研究において,反対側上肢の指先の接触や同サイズの別物体の把持では十分に成立しなかった.その為,反対側上肢の体性感覚と視覚がどのように統合され,把握動作の運動制御に寄与しているかは十分に明らかになっていない.
【目的】脳血管障害を呈した症例に対して,視覚のみの条件と事前に対象物を患側上肢で把持する条件のそれぞれの把握動作時の運動学的特徴を評価し,反対側上肢の運動機能,感覚機能の能力の違いによる,上肢の把握動作へ及ぼす影響を調査することを目的とする.
【方法】脳血管障害を呈した4症例(平均年齢73歳,男性4名,左片麻痺4名)を対象とする.各症例の上肢運動機能はBrunnstrom recovery stage(以下:BRS),感覚機能をFugl meyer assessment感覚項目(以下:FMA感覚)とSemmes Weinstein Monofilament Test(以下:SWT)をそれぞれ測定する.実験課題は卓上に用意された3つのサイズの異なる対象物に対して,健側上肢での把握動作を2つの条件にて実施し比較する.2条件は,Visual条件(以下:V条件)とVisual-Haptic条件(以下:VH条件)からなる.V条件は,健側上肢のみで把握動作を実施する.VH条件は患側上肢で事前に対象物を把持した状態で,健側上肢で把握動作を実施する.対象物のサイズと条件の異なる6組の組み合わせをランダムな順次で施行し,各組み合わせで5回ずつ,参加者一人あたり合計30回の把握動作を実施する.課題に慣れるため,各感覚条件の測定前に10回のトレーニングセッションを設けた. すべての課題で視覚は目の前のカーテンで遮断された状態で開始され,実験者の合図でカーテンが開放し動作が開始される.把握動作の反応時間の制約は課さず,合図から3秒以内に遂行するよう求める.把握動作の計測には,磁気センサ型動作解析装置を用い,母指と示指の距離の最大値Peak grip aperture(以下:PGA)を計測し,全施行の平均値を算出し,条件間の違いを検証した.本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を得ている.
【結果】症例1,2,3は手指BRSⅡレベル. SWTは母指・示指共に3.61,FMA感覚項目は触覚,受動運動覚共に満点であった.症例4は手指BRSⅠレベル,SWTは母指・示指共に5.61,FMA感覚項目は触覚1点,受動運動覚は0点であった.実験課題の結果は,全症例においてV条件に比べVH条件のPGAの全サイズの平均値が低値となった.
【考察】全症例で患側上肢のBRSはⅡ以下であったが,V条件に比べVH条件のPGAが低値となった.このことから,運動麻痺の程度に関わらず,反対側上肢から得られた感覚情報が健側上肢の把握動作の運動制御に寄与することが可能であると考えられる.また,症例4はSWTが母指・示指共に5.61,FMA感覚項目は低値となる重度感覚障害を呈しており,患側上肢から得られる対象物の三次元情報の明瞭度は低いと予想される.PGAは,対象物の三次元情報のみではなく,対象をどう操作するか,などの動作の文脈からも影響を受ける.このことから,VH条件では,反対側上肢の把持により,反対側であるものの動作完了後の運動形態が想起され,把握動作の運動制御に寄与したと考えられる.今後は,被験者数を増やし感覚障害の程度や発症からの時期も考慮し検証していく予定である.
【目的】脳血管障害を呈した症例に対して,視覚のみの条件と事前に対象物を患側上肢で把持する条件のそれぞれの把握動作時の運動学的特徴を評価し,反対側上肢の運動機能,感覚機能の能力の違いによる,上肢の把握動作へ及ぼす影響を調査することを目的とする.
【方法】脳血管障害を呈した4症例(平均年齢73歳,男性4名,左片麻痺4名)を対象とする.各症例の上肢運動機能はBrunnstrom recovery stage(以下:BRS),感覚機能をFugl meyer assessment感覚項目(以下:FMA感覚)とSemmes Weinstein Monofilament Test(以下:SWT)をそれぞれ測定する.実験課題は卓上に用意された3つのサイズの異なる対象物に対して,健側上肢での把握動作を2つの条件にて実施し比較する.2条件は,Visual条件(以下:V条件)とVisual-Haptic条件(以下:VH条件)からなる.V条件は,健側上肢のみで把握動作を実施する.VH条件は患側上肢で事前に対象物を把持した状態で,健側上肢で把握動作を実施する.対象物のサイズと条件の異なる6組の組み合わせをランダムな順次で施行し,各組み合わせで5回ずつ,参加者一人あたり合計30回の把握動作を実施する.課題に慣れるため,各感覚条件の測定前に10回のトレーニングセッションを設けた. すべての課題で視覚は目の前のカーテンで遮断された状態で開始され,実験者の合図でカーテンが開放し動作が開始される.把握動作の反応時間の制約は課さず,合図から3秒以内に遂行するよう求める.把握動作の計測には,磁気センサ型動作解析装置を用い,母指と示指の距離の最大値Peak grip aperture(以下:PGA)を計測し,全施行の平均値を算出し,条件間の違いを検証した.本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を得ている.
【結果】症例1,2,3は手指BRSⅡレベル. SWTは母指・示指共に3.61,FMA感覚項目は触覚,受動運動覚共に満点であった.症例4は手指BRSⅠレベル,SWTは母指・示指共に5.61,FMA感覚項目は触覚1点,受動運動覚は0点であった.実験課題の結果は,全症例においてV条件に比べVH条件のPGAの全サイズの平均値が低値となった.
【考察】全症例で患側上肢のBRSはⅡ以下であったが,V条件に比べVH条件のPGAが低値となった.このことから,運動麻痺の程度に関わらず,反対側上肢から得られた感覚情報が健側上肢の把握動作の運動制御に寄与することが可能であると考えられる.また,症例4はSWTが母指・示指共に5.61,FMA感覚項目は低値となる重度感覚障害を呈しており,患側上肢から得られる対象物の三次元情報の明瞭度は低いと予想される.PGAは,対象物の三次元情報のみではなく,対象をどう操作するか,などの動作の文脈からも影響を受ける.このことから,VH条件では,反対側上肢の把持により,反対側であるものの動作完了後の運動形態が想起され,把握動作の運動制御に寄与したと考えられる.今後は,被験者数を増やし感覚障害の程度や発症からの時期も考慮し検証していく予定である.