第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

呼吸器疾患

[PC-2] ポスター:呼吸器疾患 2 

2024年11月9日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (大ホール)

[PC-2-2] 呼吸困難関連恐怖を呈した慢性呼吸不全患者に対し,認知行動療法を併用した作業療法実践の可能性を検証した症例

症例研究

久保寺 宏太, 宮崎 加奈子, 藤島 春菜 (昭和大学病院 リハビリテーション室)

【はじめに】過去の労作性呼吸困難の感覚的および情動的記憶の形成から,呼吸困難が惹起される活動に対し呼吸困難関連恐怖を呈し身体非活動や抑うつに陥りやすいとされているが,慢性呼吸不全患者の呼吸困難関連恐怖と身体非活動や抑うつを認める症例に対してのOTの報告はない.本研究は,慢性呼吸不全の急性増悪で入院となった症例の呼吸困難関連恐怖に対し,CBTを併用したOT実践の可能性について検証することとした.
【症例紹介】60歳代,男性.COPDとRA-ILD,単純性肺アスペルギローマによりHOTが導入されている症例.今回はX-30日頃に妻が風邪に罹患した後,症例も鼻汁を認めるようになり,徐々に呼吸困難を自覚するようになった.X日に当院に予約外で受診し,酸素化障害を認め,COPD急性増悪の疑いで加療の目的で入院となった.入院時現症は,BT:36.2℃,BP:162/74mmHg,RR:12回/分,SpO2:82%(nasal3L/min)と顕著な低酸素血症を認めた.血液ガス検査は,pH:7.373,PaCO2:62mmHg,PaO2:49mmHgと2型呼吸不全を認め,血液検査は,CRP:4.44mg/dL,WBC:9500μL,KL-6:518U/mLと炎症反応の上昇がみられた.X日よりNPPVでの人工呼吸管理となり,TAZ/PIPCとPSL40mgの薬物治療が開始となった.X+2日より自宅退院に向けてOTの依頼があり開始.X+6日からNPPVからNHFに変更となり, PSL40mgはX+7日で投薬終了し,抗生剤はX+5日よりTAZ/PIPCからMEPMに変更となりX+11日まで抗生剤治療は行なわれた. X+11日より簡易酸素マスクとなり,同日に鼻カニュラへと酸素マスクのデバイスに変更,X+29日にHOTを再度導入し自宅退院となった.
【倫理的配慮】昭和大学における人を対象とする研究等に関する倫理委員会の指針に従い,症例に実践報告の説明を口頭で行い同意を得た.
【作業療法経過】X+6日よりNPPVからNHFへと変更となり,FIMは75/126点とベッドサイドでの活動は一部介助から見守りで実施可能でなった.しかし活動時に呼吸困難を自覚する場面に遭遇すると,過去の呼吸困難を想起する等,活動に対して恐怖や不安感を訴える場面が見受けられた.CBTの基本モデルによる症例の概念化で認知の歪みを評価すると,呼吸困難を自覚すると「死ぬかもしれない」「また苦しい思いをするかもしれない」と認知の歪みを生じ,気分は恐怖80%,不安90%,身体的反応は息切れや動悸がすると訴え,行動は活動に対して消極的な様子が見受けられた.また活動時の呼吸困難は「Multidimensional Dyspnea Profile」,「MRC息切れスケール」,「修正ボルグスケール」,破局的思考は「Pain Catastrophizing scale」,不安・抑うつは「HADS」,自己効力感は「Pain Self-Efficacy Questionnaire」で評価し,呼吸困難に対してネガティブな情動を顕著に認め,破局的思考の所見と呼吸困難関連恐怖を認めた.OTでは自宅退院後の生活を見据えて,主体的に症例が行いたい生活活動を営むことができる作業遂行能力の獲得を目標とし,呼吸困難に対するレジリエンスと対処法の獲得が達成できるよう,コラム法,段階的暴露,問題解決技法,リラクセーション法の認知行動療法の技法を併用しOTを実践した.退院時には,FIM124/126点と自立して活動は実施可能となり,呼吸困難や破局的思考,不安・抑うつ,自己効力感に関しても改善を認め,呼吸困難に陥る場面に遭遇した際には対処する方法を自ら確認し,実践できるようになった.
【考察】呼吸困難に対するレジリエンスの獲得,また破局的思考やネガティブな情動と呼吸困難関連恐怖に対してCBTを併用しOTを実践することは,主体的に症例が行いたい生活活動の作業遂行能力の獲得の促進に繋がる可能性があることが示唆された.