第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

呼吸器疾患

[PC-3] ポスター:呼吸器疾患 3

2024年11月10日(日) 09:30 〜 10:30 ポスター会場 (大ホール)

[PC-3-2] コロナ後遺症を支援するための実践介入に関する探索的研究

守屋 崇文, 武井 祐子 (岡山協立病院 リハビリテーション部)

【はじめに】
2021年当院のCovid-19重症肺炎患者は6名であった.理学療法が入院時より処方され,作業療法は1カ月後だった.作業療法は応用的動作の強度に応じ酸素流量の調整,鼻カニュラ,オープンフェイスマスクを選定し,自ら運用できるよう指導した.退院前には自宅訪問し動線を確認した.回復し自宅復帰した6例のうち,抑うつが持続する1例(本症例)を経験した.本研究では回復群と本症例とを比較し差の有無とその内容を明らかにして,臨床実践に繋ぐことを目的とする.
【方法】
重症肺炎の定義を挿管適応後とし,対象は48~86歳,男性6名でCovid-19入院18名中,同期間同条件全例をカルテより抽出.観測時点を入院時(搬送~退院前日)・復帰直後(自宅退院した当初)・2年後(2024年現在)の3期に分け定義.ADLはFIM運動項目を用い,心理測定尺度はSubjective Units of Disturbance(以下SUDs)を用い0~10点とした.SUDsは1名と連絡不通で5名となった.評価値をPairwise相関分析,Spearmanの順位相関分析で前後比較,t検定で群間比較した.有意(p<.05).5名にSUDsと理由を対面もしくは電話面接した.発言をin vivoでデータ化しKJ法で分析した.
当院倫理審査委員会の承認を得(審査受付番号2023-002),対象者本人の同意を得,開示すべきCOI関係にある企業等はなかった.
【結果】
3期別に述べると,FIM運動項目は13・73~91・81~91とADLが全症例で回復を認めた.SUDsは5~10・3~7・0と回復したのに対し,本症例のみ10・7~8・7~8と回復群と比較しつらさが有意に高かった.t(3)=−19,p=.0003183.十分条件対象者は少ないが群間に有意差を認めた.発言はNarrative-Based Medicineとして有用であった.質的に発言をみると,入院時は,両群ともに「悪夢」と差異はなかった.退院が決まったとき,両群ともに「とりあえず帰れる」と嬉しさがある一方,「じっとしてると楽だが,動くとしんどい」と不安があった.復帰直後において両群の発言に差異がみられるようになり,回復群は「酸素ボンベをもって車に乗るのがつらい」と身体を自覚する発言が多かった.2年後,回復群は「女房のはげまし」と周囲からの励ましと周囲へ呼応する気持ちがあり,本症例でも「息子と孫の顔をみる」とあり,両群ともに相互作用の発言があった.回復群は他に「走っても息切れしない」と身体的回復への自覚と,「じっとしてたら足が動かんようになる」,「仕事に復帰する」と回復しようという意欲,また「鍛えるためにランニング」,「自分で酸素外す」,「デイサービスで若いスタッフと話せて楽しい」と健康を促進するアクティビティがあった.さらに「深く考えない」,「(これからは)ポジティブに生きようかな」と幸福を促進する考え方があった.一方,本症例では意識が戻ってから2年後の現在まで「(風評被害で)人がよりつかん」,「死んだ方が良かったんか」,「一人ぼっちじゃ」と否定的だった.入院時から2年後の追跡調査では,回復群では自覚とアクティビティによって病気をセルフマネジメントした一方,本症例では否定的発言で占めマネジメントする意向はみられなかった.よって臨床実践では自覚とアクティビティが促進される働きかけが有用と結論づいた.
【考察】
臨床実践として,コロナ後遺症の一つである抑うつ症状に否定的認知による占有がみられたため,自覚とアクティビティの少なさをリスクとしてアセスメントする.時期は自宅復帰前後に特に注意する.抑うつ症状の予防として,地域に帰った2年後それ以降も継続することが考えられた.最後に,本症例では家族や友人という身近な存在のみに心を許していることが特筆され,課題が残った.